第18話 雲の上の存在
吹き始めた風は次第にその強さを増していき、まるで台風のような轟音を響かせ始めた。
「一体何なのよ!
山荒しって何!?」
大木のウロに避難した私達は身を寄せていた。
「(山荒しは突然現れる魔物の名称です。
あの雲をご覧ください。)」
ラックに言われて吹き荒ぶ風の向こう側を覗き込むと、そこには小さな黒い雲が浮かんでいた。
「あの雲が何だって言うの?」
「(あの雲の上に、山荒しが住んでいると言われています。
突然山に現れては、その殆どを突風でなぎ倒していく厄介者です。)」
ラックはそう言って尻尾を落とした。
山岳地帯に住む者の天敵といったところだろうか。
確かにふらっと現れて住む場所を荒らされるなんて洒落にならない。
山の動物や魔物とってはとんだ厄介者だ。
「この山はしっかり木々も生え揃ってるけど、今まではあんまり現れてないの?」
「(目的はわかりませんが奴は世界中の山を荒らし回っているらしいですからね、この山は私が知る限り初めてです。)」
へー、頻繁に来られないだけマシかもしれないけど、それでも来た時は最悪ね。
あんな場所にいる分手出しもできないし、正に雲の上の存在だわ。
一度どんな奴か見てみたいわね。
ま、そんな機会もないか・・・。
「とりあえず、この大木まで倒されることは無いだろうからしばらく通り過ぎるのを待ちましょうか。」
「ん〜〜ーーーーーーー。」
チラリとリリムの方を見る。
彼女は今、手足を縛られて目隠しをされております。
ついでにうるさそうだったので口布を当てられてます。
なんか嬉しそうなのが逆に腹立たしい。
「気持ち悪いからウネウネすんな!」
「ぷはぁ。セツナ様!!
いきなりなんなんですか!?」
あ、口布解けたわ。
意思伝達も解除して、声さえ聞かなければ不快にならなくて済んだのに。
しかも自分が悪い癖に怒ってるよコイツ。
「なんてプレイを!!?
こんなの、初めてです!!
もう我慢の限界です!襲いかかってきてください!!」
ちっげぇえよ!!
プレイじゃねぇわ!!!
怒っとるんじゃ無いんかい!?
「(ラック、絶対に反応しちゃだめよ!
コイツ付け上がるから!)」
「(御意。)」
私とラックは無視を決め込んだ。
手足を縛られたリリムはウネウネと動きながら私たちを探している。
「何故黙っておられるんですか!?
セツナ様・・・・?
・・・・・・セツナ様!?」
知らん。
とりあえず魔法が解けるまで大人しくしてろ。
「こんな、暗闇の恐怖に声も聞けないなんて・・・。」
お、泣く?
泣いて謝れば許してやらなくも無い。
「私に新たなプレイを強いるんですか!?
何このゾクゾクする感じ!?」
「泣いて謝れこのド変態がぁ!!!!」
あぁ〜、つい突っ込みを入れてしまった・・・。
私もまだまだ我慢が足りないわね。
「(セツナ様、風が収まってきました。)」
ラックに言われて外を見ると、先程まで轟々と吹き荒れていた風が弱くなり始めている。
私は大木のウロから外へと出た。
まだ少し風は残っているが、歩けないほど強い風では無い。
リリムと同じ空間から抜け出したかったから、多少風があっても気にしない。
ラックも続いてウロから顔を出した。
「ホント、凄いことになってるわね・・・。」
私は山の景色を見てただ呆然と立ち尽くした。
樹々がなぎ倒され、山は見るも無残な光景を映し出していたのだ。
かろうじて大木と、その周囲の数本が残っている程度。
山荒しと呼ばれる事だけはある。
一度くらいは見てみたいと思ったが、こんな凄まじい力を持った奴なんてやっぱりゴメンだ。
もし襲われたら、自然災害と戦うなんて無理でしょ?
兎に角、今回も無事だった事だけは良しとしよう。
私とラックは再び先を目指すのだ。
リリム?え、誰それ?
そんな人いましたっけ?
「セツナ様!!
私を、私を捨てないでぇ!!!」
声の方を見ると、リリムがウロから這いずって出てきた。
目隠しまで外れてやがる。
せっかく1人と1匹で楽しくやっていこうと思ってたのに。
人聞きの悪い事言わないでほしいわ。
捨てるんじゃなくて、頭から消してたのよ。
「(セツナ様、流石に先輩が可哀想ですよ。
私が縄を解いてまいります。)」
なんだこの犬、紳士気取りのイケメンか?
どうしてそんなにリリムに優しく出来るのか、全くもって理解不能。
ま、私も本気で置いてったりはしないけどさぁ。
反省って、大事だと思うの。
学校の先生だって言ってたわよ、反省しない奴はぶん殴るって。
あの子の場合はぶん殴ると悦ぶから、スルー&ステイで反省させようと思ってたんだけど。
結局のところ新しいプレイと勘違いして効果はなかったわね・・・。
神さま、そろそろ私にリリムの扱い方を教えてください。
夢の中でいいのでコッソリと。
出来れば性格を更正してくれると助かります。
私が祈りを捧げていると、ラックがリリムを縛っていた縄を噛みちぎって解放した。
「ラック・・・・・・。」
リリムがラックを見つめている。
まぁ、しっかり感謝してあげなさい。
「おっそいのよ!
せっかくセツナ様とイチャイチャできるチャンスだったのに!!
魔法も解けちゃったし風も止んじゃったじゃ無い!!」
「リィリィ〜ム〜!!!」
「はい!なんでしょう!!?」
「アンタは反省しないなら、ホントに置いてくぞ?」
目を見開いてリリムを睨みつけた。
コイツはなんでこんなに偉そうなの!?
「ラック、縄を解いてくれてありがとう。」
「(いえ、なんてことないです。)」
見事な切り替え。
この2人の関係は後々見守っていくとするか。
「まぁとりあえず大目に見るわ。
ちなみに、この山超えたら街かなんかある?」
無計画で進んでいた為、この山岳を超えた先に何があるのか全くわからない。
せめて地図くらいもっとくんだったな・・・。
「何を言っておられるんですかセツナ様。
わかってますよ?
ほんとは知ってるくせに。
王都ラズベルの領地、水の都アクアパール。
世界最大の温泉街ですよね!
私ずっと楽しみにしてましたよ!!」
どこの時点の評価で私がそれを知っていると思ったのかわからないが、まぁ勘違いを訂正する必要もない。
が、水の都アクアパール、世界最大の温泉街!?
旅の疲れを癒すには絶好の場所!
これは急いで行くっきゃないでしょ?
「よし、じゃあアクアパールに向かって走るわよラック!」
「(お任せください!)」
私たちはラックに飛び乗り街へと駆け出した。
リリムにはもちろん魔法の禁止を言い渡したが、今度やったらけり落とすつもりだ。
いざ、温泉へ!!
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