第15話 VSマウントウルフ その3

「リリム、どうせ逃げられないんだから戦うわよ!」

 

 リリムに喝をいれて立ち上がらせる。

 しかし、その間マウントウルフからは目を離さない。

 多少のダメージは入ったとはいえ、相手は弱い魔物ではない。

 

 あの程度では倒せない事は分かっている。

 膝をつきそうな程よろめいてはいたが、もうすっかり立ち上がって此方を威嚇している。

 

 いきなり襲ってこないという事はある程度警戒しているという事だ。

 

「戻ってきてくれたんですね、セツナ様!」

  

 リリムは泣きはらした顔を拭って立ち上がった。

 マウントウルフに対抗するためとはいえ悪いことをしたわね。

 でも、私も同じくらい嫌な思いをしている事を分からせるにはちょうど良かった。

 

 問題は、二人とも生きてここを抜けられるかという事。

 先制攻撃を仕掛けたとは言え、勝てる見込みが高いわけじゃない。

 

「セツナ様が戻ってこられたのなら、私に考えがあります。

 なんとかもう一撃攻撃を当てられないでしょうか?」

 

 リリムが珍しく真剣な目をしている。

 この子は最近頭がアレだけど、別に頭が悪わけじゃないのよね。

 

 実際私より知識はあるだろうし、どんな策かは知らないけど闇雲に突っ込むよりアテになりそうね。

 

「それくらいなら大丈夫よ。

 あと6発は少なくても当ててみせるわ。」

 

 まだ調教を使用していないため、SPは30残っている。

 使用することでテイムできてしまえば儲けもんだが、最悪でも一時動きを止める事は可能だ。

 

「それなら、勝てるかもしれません!」

 

 リリムは手を前に構えて真剣な眼差しでマウントウルフを凝視している。

 

「じゃ、頼むわね。」

 

 私はブラックジャックを構えた。

 マウントウルフも此方の動きに警戒してか、『グルゥゥゥ』とひと鳴きして態勢を低くした。

 

 私が動くと同時に相手も駆けだす。

 私たちを追いかけてた時と比べ物にならない速度で向かってきた。

 

 あまりに速いスピードに目で追うのがやっとだったが、飛びかかろうとする寸前にスキルを発動する。

 

 調教!

 

『グゥゥウゥううう』という低い声を出しながら、その場で体を硬直させた。

  

「てりゃあぁぁぁああ!!!」

 

 私はブラックジャックを振り回して、その鼻先目掛けて振り上げた

 

 ベキャっという鈍い音がして、マウントウルフはそのまま倒れ込んだ。

 犬や狼にとって鼻先は弱点のはずだ、かなりのダメージが入ったと思う。

 

 使ったSPは5、まだやれる。

 これなら勝てるかもしれない。


『調教に失敗しました。』


 失敗か、しかし・・・。

 マウントウルフは与えられたダメージに、その場で身悶え始めた。

 調教は解けているはずだが、えらい悶え様だ。

 

 変な音はしたけど、戦いの多そうな魔物にとって戦線に戻れないほどの痛みだったのだろうか?


「ふふふ、流石はセツナ様。

 最高の一撃でした。

 思った以上に呆気なかったです。

 ほぼ、勝負は着きましたね。」

 

 リリムが後ろで不敵に笑う。

 

「あんたの考えって結局なんだったのよ?」

 

 リリムを信じて突っ込んでみたわけだが、蓋を開けてみればなんのことはない。

 まだ何もしてないじゃない。

 

「わかりませんか?まぁわかりませんよね。」


 リリムはニヤニヤと笑いながら此方を見る。

 なんか馬鹿にされてるみたいで無性に腹立たしい。


「私はセツナ様が攻撃する寸前に、マウントウルフに【敏感肌】を使ってやったんです。

 その効果は、刺激の増幅。

 つまり、セツナ様の与えたダメージの痛みを数倍にしてやったんです!」

 

 リリムは腰に手を当てて鼻を鳴らした。

 

「あのクソ魔法にそんな効果があったの?」


 なんか偉そうなのが癪にさわるが、この痛がり様を見ていると納得する。


 だって、メチャクチャ踠いてるもん。

 魔物がここまで踠いてるとなんか無様ね。

 

 それになんだか踠きながらも地面に身体を擦り付けて、狼なのに若干笑ってる気がしてきた・・・。

 

 まさか・・・悦んでる?

 リリムに加えてなんて奴なの!?

 恐るべし、敏感肌・・・。


「・・・調教。」

 

『キャウウゥゥゥゥゥン。』

 

 マウントウルフは調教によって更にのたうち回った。

 やっぱり若干悦んでない?

 

『調教に成功しました。』

 

 あ、成功した。

 

 まぁせっかくだから調教使ってみたけど、あっさりすぎるでしょ。

 これも敏感肌の効果のおかげ?

 

 調教中も楽しそうだったわよ?

 痛がってはいたけど。

 

 しかし、マウントウルフは前足で鼻を押さえて痛がりながら、体に触れる地面の感触に悦んでいるようだった。

 

 これでコイツもまともじゃなかったら最悪よね。

 これだけ大きいんだから乗り物にでも使ってやろうかと思ったけど。

 

 どうか多少はマシな奴でありますように。

 

 両手を合わせて見えない神に祈る。

 それを理解できていないリリムは不思議そうにセツナを見つめて首を傾げた。

 

「セツナ様?」

「あ、テイム成功したわ。私らの勝ちよ。」

 

 半ば棒読みでリリムに伝えて、マウントウルフとの戦いは終わった。


 それからMPが足りるだけリカバリーをかけたり、敏感肌の効果が消えるまで2時間近く待つ事になったりと大変だった。

 

 それにしても、敏感肌と調教のコンボって凄いわね。

 なんか攻撃しなくてもこれだけでテイム出来そうなじゃない?


 ただまぁ、見てるとちょっとリリムの醜態を思い出すのがネックよね・・・。

 とりあえず、今回は無事に戦い終わったのだ。

 見事な完全勝利である。


「よかったぁ!」


 その場に仰向けで倒れこむと、夜空には無数の星が煌めいていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る