第14話VSマウントウルフ その2

《セツナは逃げ出した。》

 うまく逃げ切れたようだ。

 

《リリムは逃げ続けた。》

 しかし魔物に回り込まれてしまった。

 



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 セツナ様に見捨てられた?

 愛しのセツナさま・・・何故っ!?

 

 私は泣きながら山の中を走り回っていた。

 セツナ様の後を追いながら必死になって走っていたと言うのに、セツナ様は私に『ヨロシク!』と言い残して姿を眩ませてしまった。

 

 もう何がなんだかわからない。

 顔は溢れでた涙で濡れて視界はボヤけるし、鼻水まで出てくるしでとんでもない事になっている。

 変な汗が流れ落ちて、正直今にもおしっこちびりそうです。

  

 マウントウルフは面白がって距離を変えずに着いてくるし、私どうなっちゃうんですか!!?

 

『ガウッ!』

 

 マウントウルフは一鳴きしたかと思うと、跳躍して突然私の前に降り立った。

 

 終わったぁぁぁあああ!!!!

 

 辺りを必死に見渡してセツナ様を探したけど、全然見当たらない。

 本当に囮にされてしまったみたいです。

 

 ひどいですセツナ様。

 もし私が死んだら一生背後に立ってやりますからね。

 

 ん?死んだら一生セツナ様にくっついていける?

 それはそれでありかもしれない。

 だって、お風呂とか・・・

 今まで諦めていたトイレなんかも覗き放題!?

 

 えっ?もしかして役得?

 

 待て待て私。

 それはそれで魅力的なゴーストライフかも知れないけど、触れ合いが無いじゃない!

 セツナ様との触れ合いも会話もないなんて、そんなの生殺しよ?

 と、言うことは・・・。

 

 やっぱりまだ死ねない!!

 

『グルルルゥゥゥゥゥ。』

 

 でも死にそう・・・。

 

 マンウトウルフはユックリと私に近寄ってくる。

 もう少し追いかける事を楽しんでくれれば時間を稼げたのに。


 まぁ時間を稼いだ所でどうなるわけでもないのだけど。

 

 私が逃げ道を探していると、マウントウルフは御構い無しに跳躍して私を押し倒した。

 

「いったぁ〜・・・い・・・・。」

 

 私の顔にマウントウルフの大きな顔が近づいてくる。

 そのままその鼻で匂いを嗅ぎ始めた。

 

 私の人生ここで終わり見たいです・・・。

 あぁ、上に乗っているのがセツナ様なら良かったのに。

 

 マウントウルフの口から涎が垂れて服へと滴り落ちる。

 

 汚い!?

 セツナ様から溢れ出る愛の雫なら喜んで口ででも受け止めると言うのに、なんでこんな魔物の涎を!!?

 

 死ぬ前くらいいい思いをしたかったわ・・・。

 

 今にも私にカブリついてきそうなマウントウルフを見上げて、私は身動きひとつ取れないでいた。

 

 死を覚悟したら、何故か逆に落ち着いてしまって全ての動きがゆっくりと映る。

 

「殺すのなら、責めて苦しまないようにお願いしたいわね・・・。」

 

 魔物に頼んでも無駄か・・・。

 

『ギャヴゥゥ!?』

 

 目を閉じて人生の終わりを覚悟していた時、マウントウルフが奇声を上げて私の上から退いた。

 

 いや、飛んで行ったと表現した方が正しいかも知れない。

 

 慌てて起き上がると、すぐ横にヨロヨロと膝をつきそうなマウントウルフと、セツナ様が立っていた。

 

「待たせたわね、リリム。流石の私も友達を見捨てるなんて出来ないわ!!」

 

 あぁ・・・この人は、やはり私が想い続けたセツナ様だ。

 

 見捨てられたわけではなかった。

 裏切られたわけではなかったんだ・・・。

 

「セツナ様!!」

 

 私の瞳からは、マウントウルフに追われていた時とは全く違った涙が溢れ出した。

 


 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 



 リリムを囮に使って道を逸れた私は、先ほど目に映った物の所へ足早に向かった。

 

「やっぱり、これなら使えるわ!」

 

 そこには一輪の花が咲いていた。

 花はとてつもなく大きく、背丈は5mを優に超える。

 葉っぱの一枚ですらその大きさは2m近くある。

 3枚の葉っぱの上に、大きな黄色い花が月明かりが射す方を向いて顔を覗かせている。

 ムーンライトフラワー、別名:袋花。

 その花が付ける3枚の葉っぱはとても頑丈で、風呂敷代わりにも出来ることからその名が付けられている。

 

 葉っぱの茎の部分は簡単に切断することが出来るが、葉っぱの部分はとても頑丈に出来ておりちょっとやそっとじゃ破れもしない。

 

 切れにくく破れにくいため、安い防具の材料なんかにも使われているほどだ。

 

 その葉っぱを二枚拝借して、近くから砂をかき集めて葉っぱの中央部分に乗せた。

 その砂を包むように葉っぱを折り返して、首の部分を蔦でくくって砂が外に飛び出さないように加工する。

 

「よし!簡易武器、ブラックジャックの出来上がり!」

 

 もう一枚は体に括り付けて、簡易防具も完成した。

 

 ブラックジャック・・・それはまさに凶器である。

 袋に詰めた砂を、遠心力を加えて相手に叩き込む事でその威力を発揮する。

 衝撃はそこらの棍棒を振るって与える物とは比べ物にならないほど強力だ。

 

「急ぐか!」

 

 私は作った簡易装備を持ってリリムの元へと急いで向かった。

 

『グルルルゥゥゥゥゥ。』

 

 少し離れた場所でマウントウルフの唸り声が聞こえた。

 

 近い、間に合って!!

  

 そこへ向かって走っていくと、マウントウルフがリリムにのしかかっている姿が目に入った。

 まだリリムは無事のようだ。

 

 マウントウルフはリリムの顔に鼻を近づけているだけで、噛み付いている様子ではない。

 

 獲物であるリリムに意識を集中しているため、此方にはまだ気づいていないようだ。

 私は躊躇なくスキルを使用した。

 

 捕獲!

 

 私の手から放たれた紙はヒラヒラとマウントウルフの尾に向かって飛んで行った。

 赤かった紙は薄透明になっており、夜の闇に紛れて飛んでいく。

  

 色薄っす!!

 

 レベルを上げた事による変化だろうか?

 紙はそのまま尾に絡みついたがマウントウルフは気づいていないようだった。

 

 なんかよくわかんないけど、結果オーライ!

 いえ、予定通り!!

 

 私はそのまま此方に気づいていないマウントウルフの背後に忍び寄って、ブラックジャックの一撃を思いっきり喰らわせた。

 

『ギャヴゥゥ!?』

 

 腹部に強烈な衝撃を与えた事で、マウントウルフはその巨体をリリムの上から弾き落とされた。

 

 不意を突いた一撃に相当なダメージを与受けた様だ、倒れてはいないが今にも膝をつきそうなほどよろめいている。

 

「待たせたわね、リリム。流石の私も友達を見捨てるなんて出来ないわ!!」

 

 さて、頭がおかしいとはいえ私の幼馴染を襲った事。

 そして、肉を横取りされた事への恨みを今こそ晴らしてやるわ!!

 

 元農家の娘を舐めんじゃないわよ!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る