第12話 山岳を駆る者

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 目玉焼きを食べ終えて、私とセツナ様は再び先を目指して歩いている。

 

 あの大きな卵も鶏同様に美味しかった。

 さすがはセツナ様。

 私だけなら多分食べてなかった。

 

 セツナ様は食後に血抜きの終わった鶏の羽を毟り取って下処理をしておられた。

 その後熱湯につけて、中を綺麗にしたら終わりだと言っておられたけどどこでそんな知識を得られたのか?

 

 お湯を沸かすにしても鍋がないのでどうするのかと見ていると、大きな木の皮をベリベリとはがし取って簡易的な器を作っておられた。

 そこに水を入れて鍋代わりに使われ始めたのだ。

 火を焼べられた時は木の皮が燃えてしまうのではと心配して見たいたが、そんな事はなくちゃんとお湯が湧き上がった。

 

 なんでも水の沸点より、火がつく為の温度が高いので燃えないそうだ。

 

「農家の娘ならこれくらい知ってるわよ?」

 

 セツナ様はそうおっしゃっていたが、普通の農家の人間にそんな知識は無いと思う。

 だってそれ、サバイバル術ですよ?

 

 水が入れられる物なら大抵のものは簡易な鍋やヤカン代わりになるそうだ。

 

 どこで誰に教わったのか、いや。

 それをさも同然のように実行なさるセツナ様、流石です。

 

 下処理を終えて肉を適当に切り落として、一部を今日の分、残りを燻製用に分けて綺麗にしておられた。

 

 なんでも、塩漬けにしていくつかの工程を挟んだのち明日か明後日には燻製に出来るらしい。

 

 そんな知識は普通の家庭では教えられませんよ、セツナ様。

 

 そんな鶏肉を余す事なく持って、旅は再開されました。

 

 リュクの上にさらに鶏肉。

 重たいです。

 

 でも、なんでしょう。

 セツナ様から苦渋をしいられるこの感じ。

 私、頑張れる気がします。

 

「リリム!遅い!!

 私の方が多めに持ってあげてんだから早く歩きなさいよ!」

 

 あぁ、セツナ様の意地悪!

 もっと苛めて!

 

 でも、あんまりこの気持ちを表に出しすぎるとセツナ様本気で怒るからなぁ。

 罵られるのはいいけど、セツナ様に嫌われるのは嫌だ。

 

 ほどほどに抑えておこう。

  

「これ以上は無理です、もう少しゆっくりお願いします。」

 

 私が弱音を吐くと、面倒臭そうにしながらも必ず気遣ってペースを落としてくれるセツナ様。

 そんじょそこらにいる殿方より、よっぽど魅力的です!

 

 村を出発して二日目の今日は、昨日の朝と同様に空は快晴。

 素晴らしい天気だ。

 

 鶏の一件のせいで昼を過ぎてしまったけど、さっき食べた目玉焼きのお陰でお腹はそんなに空いていない。

 

 この分だと、夜までお腹も大丈夫そうだ。

 それにしても、セツナ様が前を歩いてくれるお陰で気兼ねなくその曲線美を背後から眺められる。

 

 お尻の筋肉が、素晴らしいです!

 リュックで多少隠れてしまっているのがまた・・・心を擽りますね。

 

「リリム、何ニヤニヤしてんのよ・・・。」

 

 不意に後ろを振り返るセツナ様に、気付かれてしまった。

 

「いえ、セツナ様と一緒に居られる事を噛み締めていただけです。」

 

 げっ、という顔をしてまた私から目を離して進んで行く。

 ペース上がってます!セツナ様!!

 

 一つ目の山をその日のうちに超えて、隣の山をさらに進んだ。

 ここはリルリコ山岳地帯、3つの山が連なっている。

 ここを超えた先にあるのは王都ラズベルの領地、確か勇者のパーティの魔導師が領地を与えられた街があったはずだ。


 今は勇者と共に世界各国を凱旋に回っているため本人は留守だろうが、水の都と呼ばれる街には温泉がある。

 

 セツナ様はそこを目指しておられるのだろう。

 温泉・・・セツナ様と!?

 

 鼻血出ちゃった。

 セツナ様にバレる前に拭いてしまわないと。

 

「あ、レイヌの実みっけ!」

 

 セツナ様は何やら黄色い実を捥いでせっせと袋に詰め始めた。

 

「リリム!おやつ見つけたわよ〜。」

 

 私の方を全く見ずに声を上げて実を捥ぐセツナ様。

 横顔が素敵!

 

 どうやらレイヌの実は食料の様だ。

 どんな味だろう?

 

 セツナ様から採った実を分けてもらって食べてみる。

 思った以上に柔らかく、果汁が溢れ出てくる。

 甘酸っぱくておいしかった。

 

 そのままその日は夕方まで歩き続けて、適当な岩の窪みを見つけてそこで野宿をする事になった。

 

 セツナ様は塩漬けにした鶏の肉を、近くの小川につけて塩抜きをしていた。

 夜寝る前に薄切りにして、風乾させるそうだ。

 それが終わったらとうとう肉を燻製にするそうだが、完全に燻製作業が終わるまでここにとどまるらしい。

 

 早ければ明日の昼過ぎには出発できる様だ。

 

 私はその間に取っておいた鶏肉を焼いて、夕ご飯の支度をした。

 お肉とレイヌの実、それから途中で見つけた木の実を綺麗に盛り付けて出来上がり。

 

 お米があれば最高だけど、セツナ様との食事が出来るだけで幸せだ。

 

「焼き鳥も美味しいわね!

 こりゃぁ燻製も楽しみだわ。」

 

 セツナ様が食事をしながら鶏肉を絶賛する。

 たしかに普通の鶏肉より引き締まっていて、思ったほど大味ではなかった。

 美味しい。

 

『ワオォォォォォォォォォォォ』

 

 突然遠くから遠吠えが聞こえた。

 この辺りには魔物は少なかったはずだが・・・。

 

「何今の!?狼!?」

 

 セツナ様が怯えている、そんな姿もそそりますね。

 いや、今はそんな場合じゃない。

  

 私も怖いんです!!!

 

「ど、ど、ど、どうしましょうセツナ様!?

 こんな美味しそうな匂いプンプン出してたら絶対ここにやってきますよ!?」

「とにかく一旦荷物は置いて隠れるわよ!」

 

 私達は一目散に駆け出して生い茂った藪の中に身を潜めた。


 すぐにそいつはやってきた。

 2メートル強の巨体、山岳の覇者。

 

 縦横無尽に山岳を駆け巡るその魔物はこう呼ばれていた。

 山岳を駆(狩)る者、マウントウルフ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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