第11話 古代魔法

 何その魔法。

 エンシェントノヴァとか滅茶苦茶かっこいいじゃない、リリムのくせに。

 名前からして初級で覚えれるような感じがしないんですけど!

 

 リリムが魔法を唱えると・・・

 

 ・・・・・・・・・。

 

 唱えると?

 

 何も起きませんけど?

 

「MPが足りませんでした!」

「この役立たず!!

 MPが不足するような魔法覚えてんじゃないわよ!!

 JPの無駄遣いよ!ム・ダ・づ・か・い!!

 一つくらい役に立つもの覚えなさいよね!!!」

 

 鶏は勢いを増してリリムと私に鳴き叫んでは距離を取る。

 いい加減コイツの嫌がらせにもイライラしてきたわ。

 

 なんか弱点とかないの!?

 

 リリムの無能さには呆れてこれ以上何も言えないが、まずはこの状態を打破しなければならない。

 

 とにかく鬱陶しいことこの上ない!

 ただでさえでかい鳴き声をワザワザ耳元で叫んでくる。

 

 待てよ、確かにあの鳥は耳元で叫んでくるのだ。

 動きは思った以上に素早いが、鳴き叫ぶ瞬間は耳元に顔が近づいてくる。

 それに、さっきから私とリリムを交互に狙っている様な・・・。

 

 なんだ、考えてみれば簡単な事じゃない!

 

 リリムの方へ駆けて行った鳥の方を見てから周囲を確認する、周りは木々が生い茂っている。

 その中で一際大きな一本を探し出して樹の根元まで駆け寄った。

 

 私は左半身を樹の幹にある窪みに押し当てて、左手を右側に構えて右手にナイフを握りしめた。


 絶対に側から見たら無様よね・・・。

 でもそんな事は言っていられない。

 リリムの耳元で華麗に叫び終えた鶏が此方に向かって駆けてくる。

 

 さあ、これで終わりよ。

 人をおちょくった罰を与えてやるわ!

 

 予想した通りに鶏はまっすぐ私の耳元めがけて首を伸ばしてきた。


 《コッ》

 

 鳴き声が聞こえたと同時に捕獲のスキルを発動する。

 

《グェ!?》

 

 私の左手から放たれたそれは鶏の首元に巻き付いた。

 突然の攻撃を受けて鶏は混乱の声を上げる。

 

 調教!

 

《グゲェェぇぇぇぇええええ!!?》

 

 世にも汚い鳴き声をあげながら、鶏は体を震わせた。

 

 よし!

 動きが止まった。

 テイムできるかどうかは関係ない、成功しても失敗しても私はお前を食う!!

 

 だからこれは動きを封じるためだけに発動したスキルだ!

 

 右手にもつナイフに力を込める。

 長年農家で培ってきた包丁捌き、見せてやるわ!!

 カボチャを片手で両断できる私の腕を舐めんなよ!?

 

 そんな20㎝も無いような細い首くらい切り落とせないと思ってかぁ!

 

「ゴチになります!!

 でぇりゃぁぁぁぁああああ!!!」

 

 雄叫びを上げながら右手のナイフを鶏の首元に斬りつける。

 多少の抵抗はあったものの、ウチの丸々と太ったカボチャに比べたらやおいやおい。

 

 鶏の首は切断されたが、首の皮一枚残って切られた上の頭部分が首からぶら下がった。

 

 あ、ちょっと気持ち悪いかも・・・。


 首を切られた事でそこから血を吹き出し始めた。

 うん、普通にグロい・・・。

 鶏は首から血を吹き出しながら走り回っている。

 

 血抜き血抜き。

 

 知ってました?鶏って、昔はこうやって血を抜いてたらしいですよ?

 

「うげぇぇぇ・・・・。」

 

 リリムはその光景を見て気分を害したようで、草陰に隠れた。

 

 いい気味ね!

 私を困らせた罰よ!!

 

 まぁ、慣れない人には確かに気持ち悪いものね。この光景は・・・。

 

 デカイ所為で吹き出す血の量も普通の鶏の比じゃ無いし。

 

 しかし、今更だが下処理しないと直ぐには食べれないわね。

 まずは一旦吊るして完全に血を抜いて、お湯に浸けてから羽を毟り取って・・・

 

 そこまで終わればあとは内臓を取り出してほぼ完成ね。

 これだけ大きいと食いごたえがありそうね。

 

 私がそんな事を考えていると、鶏はばたりと倒れて動かなくなった。

  

 よしよし、そんじゃまぁ下ごしらえしますか。

 

 でも、その前に木の実でも無いかしら・・・

 そろそろ本当にお腹すいて倒れそう・・・。

 

 鶏の近くへ歩いて行くと、その倒れている近くに卵が二つ転がっていた。

 

 触ってみると生暖かい。

 もしかして、死ぬ前に力んで産み落としちゃった?

 

 ラッキー!

 サイズもかなり大きめだし、お腹の足しにはなりそうだ。

 

「リリム、いい加減にこっちに来なさい!

 鶏如きにビビってんじゃないわよ!」

 

 私の声に反応して、リリムが嫌々茂みから抜け出してやってきた。

 

「セツナ様はなんでそんなに平気でいられるんですか・・・?

 ちょっとどころじゃなく気持ち悪いんですけど。」

 

 倒れた鶏を見て再び『うえっ』とえずいて渋々近づいてくる。

 

「卵!見つけたから目玉焼き作ろう!」

 

 こんなサイズの卵で作るのは初めてだが、楽しみだ!

 確かリリムが簡単な調理器具を順次していた筈だ。

 

「その卵食べれるんですか?」

「食べれるかどうかじゃないのよ、食うの!

 それと、私が鶏の処理するからリリムは目玉焼き焼いといて。

 私のために!」

 

 私のためというところを無駄に強調してみる。

 物は言い様で、リリムには効果覿面だろう。

 

「セツナ様のためとあらば、お任せください!」

 

 ほらね、簡単な女。

 普段もこれくらい使いやすければ文句無いんだけど。

 

 鶏を吊るして血を抜いていると、目玉焼きが出来上がった。

 フライパンが小さかったため、リリムは二回に分けて焼いてくれた。

 

「やっぱりデカイわねぇ。

 それに、色も形も普通の卵と変わらないじゃない。

 絶対美味しいやつじゃん!」

 

 それはもう見事に大きい目玉焼きだった。

 程よい半熟具合が最高に食欲をそそる。

 

 あぁ、こんな事なら調味料を、せめて醤油でも持ってくればよかった。

 

「はいこれ、セツナ様目玉焼きは醤油ですよね?

 少ないですけど持ってきてますよ。」

 

「ありがとう!気が利くわね!」

 

 え、何この子。女子力全開?お母さん?

 今までの愚行を無かったことには出来ないけど、それでも今この場では評価爆上げ急上昇よ!?

 

 リリムから醤油を受け取って卵に垂らす。

 

 ますます美味そう。


「いただきま〜す!!」

 

 皿は樹脂製の軽いものを持ってきていたようで、そこも評価すべきポイントだった。

 

 空腹で食べた目玉焼きは最高に美味しかった。

 食べる喜びって大事よね。

 なんか満たされる。

 

「ところでさぁ、さっきアンタが使おうとしてたエンシェントノヴァ ってどんな魔法なの?」

 

 MP不足で役に立たなかった魔法だ。

 しかし、低レベルとは言え賢者のMPで使用できなあとはどれほどの魔法なのか気になった。

 

「あれは古代魔法で爆裂魔法の一種です。必要なJPも他のものの倍近くあったので期待したのですが・・・。

 先ほど魔法の詳細を調べてみたら必要MPが1000でした。

 私はまだMPが60しかないので、使えるはずありませんよね・・・。」

 

 必要MP1000って、どんだけ強力な魔法なのよ!?

 そもそもそんな魔法をレベル1や2でおぼえれるの!?

 まぁ条件次第なんだろうけどさ。

 

 使えない魔法覚えたって意味ないじゃない、100とかならすぐに使えるようになるかもしれないけど・・・1000てアンタ・・・・・・。

 

「でも、魔法のレベルを上げれば消費MPを下げられそうなんです。

 詳細には魔法LVを1上げるごとにMPが100下がると書かれていました。

 魔法やスキルは大抵LV10まで上げられますから、100のMPでも使用可能になるかと思います。」

 

 なるほど、魔法やスキルはLVを上げれば威力が上がるものだと思い込んでいたけど、初めから強力な魔法にはそういったものもあるのか。

 

 古代魔法。

 響きはいいが、これ以上無駄な魔法は現段階で覚えさせないように言っておかなくては。

 

「当分、古代魔法の習得は禁止ね。」

「はい・・・。」

 

 それにしても卵がうまい!デカイ!

 案外お腹が膨れたし、張り切って鶏の下処理しちゃいますかね!

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