第10話 緊急クエスト、空腹を満たせ!

「リリム、そっちに行ったわよ!!」

「任せてください!」

 

 リリムが木の枝を振り回して、体長1.5メートルを超える巨大な鶏へ攻撃する。

 その鳥はリリムの攻撃を跳び上がってするりと躱した。

 

 跳躍はするが羽で飛翔することはなく、飾りのようにブラブラと振り回しているだけだ。

 まさに巨大な鶏だが、その鳥は嫌味のように耳元まで来て叫んでは逃げるを繰り返した。


 鳥の名称はコッコウェイ。

 ヒット&アウェイならぬコッコ&アウェイをひたすらに繰り返すいやらしい魔物だ。

 私たちは彼此30分近くこの叫んでは逃げるの嫌がらせにあっている。


 何故こんな事になったかと言うと・・・。

 



◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 私は耳栓の素晴らしい効果によって、洞穴で熟睡していた。

 どれほど寝たかって?

 寝る前は日も暮れる前だったと言うのに、気付いたら翌日の明け方だった。

 

 登り切った日の光が差し込んできて目が覚めたのだ。

 雨も上がったようだと安心したが、目覚めて直ぐに私のテンションは計り知れないほど急降下した。

 横を向くと直ぐ隣にリリムの顔があったのだ。

 

 すーすーと寝息を立てて気持ち良さそうに眠っている。

 

 こいつ、確かに近づくなとは言わなかったが、私が寝てる間に何もしてないだろうな?

 

 目覚めて早々に不快な思いをさせたリリムを叩きを起こした。

 

「リリム!起きなさい!!」

 

「はっ!はい〜!!」

 

 リリムは寝ぼけているのか跳び上がって周りをキョロキョロと見渡した。

 

「あ、セツナ様。おはようごさまいます。」

「おはようじゃないわよ。あんた、私に何もしてないでしょうね?」

 

「何もしてませんよぉ。」


 リリムは目をこすりながら眠たそうに呟いた。

 

「あれ、あんた凄いクマができてるわよ?

 もしかしてあんまり寝てないの?」

 

 目の下にはそれはもう見事なクマが出来上がっている。

 

「セツナ様が眠ってしまったあと、魔法が切れるまで2時間ほどかかりまして・・・。

 それまで魔法の感覚を楽しんでおりました。」

 

 アホやろ。

 

「それから今後の事を考えて、少しでも役に立つ魔法を覚えようと【敏感肌】を使い続けまして。

 レベルが一つ上がってJPも獲得でき、新しい魔法も覚えましたが、快感に我を忘れて気が付いたら夜が明け始めておりました。」


 やっぱりアホやろ。


 私に対する評価を上げようとしての忠誠心ではなく、どう考えても自己満足のために魔法を使っていただけでしょ。

 心配した私が馬鹿だったわ。


「魔法を誤って重ねがけしてしまった時のあの感覚、たまりませんでした!」

 

 誰かコイツを何とかしてください。

 今の私には手に負えません。

 せめてどこかの奴隷商にでも売り渡せれば、私は気持ちよくひとり旅を謳歌できるんですけど・・・。

 

「自業自得なら仕方ないわね、雨も上がったみたいだし出発するわよ。」

 

 寝ていないのは決して私のせいじゃないので、寝不足のリリムを急かす事に心は痛まない。

 

 しかし、気になるのは覚えたと言う新魔法。

 『役に立つ魔法を覚える為』と豪語していたのだ、少なくとも私の希望に沿った魔法を習得してくれているだろう。

 

 いや、待てよ。

 確か習得条件を満たしたのは性魔導師だけとかほざいていたな。

 

「まさかあんた、またおんなじ魔導師の魔法を覚えたんじゃないでしょうね?」

 

 疑いを持って目を細め、無表情にリリムを見つめる。

 

「そんなわけないじゃないですか。」

「目を見て喋れ!」

 

「本当に性魔導師の魔法じゃないですよ!

 覚えたのは闇魔導師の魔法です!」

 

 攻撃魔法の多い闇魔導師?

 私の期待をいい意味で裏切ってるじゃない!

 

「じゃあ、攻撃魔法を覚えたのね!」

「あ〜・・・いえ、覚えたのは秘薬精製です。私のMPが底をついた時などに回復や補助が出来る薬を作れればと思いまして。

 ただ、まだ魔法LVは1なので効果の薄いものしか作れませんが。」

 

 秘薬精製か、攻撃魔法に期待していたがリリムの考えにも不本意ながら納得できる。

 そもそも私たちはまだ転職したてでステータスも低い。

 

 レア職業の賢者と言えどもMPは有限だ。

 私にとってもMPやSP回復は有り難いし、選択肢としてはありなのかもしれない。

 

「それと、攻撃魔法も覚えましたよ!

 賢者は獲得できるJPが10もありましたし、レベルが上がった事で習得条件を満たした攻撃魔法も習得しておきました!」

  

 何だコイツ、馬鹿だアホだと罵ってきたが少しは頭を使えるようだ。

 一つ目に覚えた【敏感肌】の時は殺意すら湧いていたが、賢者の有用な魔法を覚えてくれるのであれば文句はない。

 

「早くレベルを上げて、色んな薬を作りたいです!」

 

 ん?

 今の発言・・・なんでこんなに引っかかってるんだ?

 別に変な事は無かったのだが・・・

 

「どんなクスリを作りたいの?」

 

 私の思い過ごしなら良いのだが。

 

「秘薬中の秘薬、媚薬です!」

 

 神さま、どうかこの子を受付嬢に戻してください。

 そもそもなんでこんな女に生を与えたのですか・・・。

 

 その内魔物の餌にでもしてやろうか・・・。

 

 《ぐぅ・・・・・・・》

 

 私のお腹から大きな音が響き渡った。

 そういえば、昨日の昼以降何も食べていない。

 

「リリム、食べるもの持ってない?」

 

 よく考えたら化粧品とか生活必需品ばかりリュックに詰めたから蓄えが何もない。

 行き当たりばったりすぎた・・・。

 

「私は持ってないです。

 そんなに大量の荷物を持って歩けませんから。」

 

 そっか、非力だしね。

 食べ物がないと分かると余計にお腹が空いてきた。

 

《コッケコッコォォォォォ!》

 

 ちょうど近くで鶏の鳴き声がした。

 その鳴き声を聞いた私は瞬時に捕らえて食べる思考に至る。

 荷物を洞穴に置いて外に飛び出した。

 想像と違った鶏に驚きはしたが、食糧を見つけた事に変わりはなかった。

  

 それからと言うもの、現在に至るまで決死の捕獲作戦を実行している。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「避けられてんじゃないわよ!」

「だって早いんですよぉー!!」

 

 捕まえないと食べれないじゃない!

 それに、あの動きを止めなければ私の捕獲も当たらないだろう。

 あの紙の飛んでいくスピードはそんなに早くはないのだ。

 

「そうだ、リリム!

 覚えたって言う攻撃魔法使いなさいよ!!」

「そうでした!ふふ、見ててくださいセツナ様!

 私の覚えた魔法を!!」

 

 

 リリムは木の枝を杖の如く振り回して鶏に狙いを定める。

 

「くらいなさい!【エンシェントノヴァ】!!」

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