第7話 初・魔物の従者

 《ネズコロリン》それは畑の害獣であるワーラットを駆除する為に開発された殺戮兵器。

 猫に与えるマタタビの様に、ワーラットの理性を奪うほどの強烈な誘惑剤を染み込ませた毒物だ。

 

「ダメよワーラット!真っ直ぐ突っ込んだら殺される!!」

 

 ワーラットはすでにリリムの目の前まで迫っていた。

 お願い避けて!!

 

「ギィイイ!!」

 

 ワーラットはその鋭い牙を剥き出しにして、リリムの方へと跳躍した。

 そこは修羅の道よ!!

 

「戻ってきなさぁぁああい!!!!」

 

『【警告】クリステンホルンが理性を失った為、命令は実行されませんでした。』

 

 手遅れぇぇええええ!!

 て言うかアイツに名前あったの!!?

 

 ワーラット、クリステンホルンはネズコロリンに噛み付いた。

 

 パタン。

  

『【報告】クリステンホルンが死亡しました。

 従者の印が消滅しました。

 従者数-1。』

「見ればわかるわよ・・・。」

 

 頭に勝手に浮かんでくるテロップも私をおちょくっているのでは無いだろうか?

 ワーラットを殺すために作られた丸薬を食べたんだから、そりゃ死ぬでしょ。

 

「この人でなし!」

「私は襲ってきた魔物を倒しただけよ。

 セツナ、残ったスライムなんかじゃ私に敵わないわよ?」

 

 スライムは身震いするように身体をウネウネと動かして後ずさった。

 スライムって魔物の中では最弱クラスのだけど、従者解放を使えば時間制限はあるもののソコソコ闘えるんじゃないだろうか?

 私は淡い期待を寄せ、彼の力に賭けてみる事にした。

 

「私が力を与えるから、貴方も闘える?」

 

 スライムは私の言葉に後ずさるのをやめて、ウネウネとリリムの方へ動き始めた。

 

 やれるって事ね、人間と違って魔物は従順なのかしら?

 

「それじゃ、短期決戦と行こうかしら!」

 

 リリムの動きを封じて仕舞えば此方の勝ちだ、2対1を卑怯だとは思わない。

 何故なら私自身に力は無いから!

 

「いい?私が貴方を強化するから、リリムに絡みついて動きを封じなさい。

 その隙に、私がリリムをこの蔦で縛り上げる。

 リリムの動きを封じ込めれば私たちの勝利よ。」

 

 私は地面に生えていた蔦をちぎり身構えた。

 スライムを見ると、体を上に伸ばしてコクリと頷く様な仕草を見せる。

 その頭?にはリリムと同じ従者の印が刻まれていた。


 よし、連携も取れそうだ。

 あとは従者解放のタイミングね、素早く且つ正確に・・・。

 リリムとの距離を確認し、一旦目を閉じてステータス画面から従者一覧を選択した。

 

 アレクサンドラ

 スライム

 無職

 【従者解放】

 

 アレクサンドラ・・・・。

 スライムの癖に名前だけカッコ付けすぎでしょ!

 

 でも、ワーラットと同様に名前あるんだ・・・。

 魔物の世界も色々あるのね。

 

「行くわよ、アレクサンドラ!」

 

 スライムが前にウネウネと動き出した。


 ・・・・・・・・・・。


 遅い!

 私が歩くより遅い!

 

 しかし、スライムは着実にリリムとの距離を詰めている。

 


 今だ!!

『従者解放を行いますか?YES/NO』

 YES!

 

 『従者解放を行いました。

 アレクサンドラの能力を一部解放。

 解放時間残り1分。』

 

 解放と同時にスライムの移動速度が急激に早くなった。

 

 これならいける!

 スライムは素早くリリムの前まで詰め寄ると、その液状の体を大きく引き伸ばしてリリムへと襲いかかった。

 スライムは弱いながらも物理的な攻撃が効きにくい、少しの時間ならリリムの動きを止められる筈だ。


 私はスライムがリリムに絡みつく隙をつくため、少し遅れて走り出す。

 

 《ジッ、ボッ。》

 

 じっ、ぼ?

 小さな音が聞こえたとほぼ同時に、スライムの体は炎に包まれた。

 

「なんですって!?」

 

 私は咄嗟に足を止めた。

 スライムの体は炎によってみるみる小さくなっていく。

 

「アレクサンドラァァァァア!!!!」

 

 叫びは虚しくアレクサンドラは跡も残さず燃え尽きてしまった。

 

『【報告】アレクサンドラが死亡しました。

 従者の印が消滅しました。

 従者数-1。』

 

 そんな、何故あれほど勇敢で忠実なアレクサンドラが・・・。

 

「あら、知らなかった?

 スライムは可燃性の液体で出来てるから簡単に燃えるのよ?」

 

 リリムは不敵な笑みを浮かべながら、その右手にはジッポライターを持ってた。

 

「ジッ、ボってそれか!!

 何でアンタがそんなに魔物に対して強いのよ!?」

 

 二匹がやられた事に若干しんみりしていたが、大した付き合いでも無いので実はそれ程悲しくは無い。


 だって仕方ないじゃん。

 リリムの事がそれ以上に恐怖だもん。

 

「私はこれでもギルドの人間だからね。

 貴方より魔物にも職業にも詳しいわよ?」

 

 リリムはジリジリと歩み寄ってくる。

 私の魔法やスキルでは何もできない。

 それに走りすぎてそろそろ大量的にも限界だ。

 

「もう諦めて私と一緒にいましょう?

 そうしてくれれば、貴方が嫌がる事はしないと誓うわ。」

 

 リリムがこれ程までに恐ろしい娘だったとは・・・。

 このままだと、何をされるか分かったものじゃ無い。

 

 リリムに対する恐怖と焦りで思考が定まらない。


 一緒にいるだけで嫌がる事をしないのならば、いっそ仲間として旅に連れて出るしか無いのだろうか?

 正直リリムから逃れる術を思いつかない。


 今の危機を脱する手段が思い浮かばず、私はさっきまで考えてもいなかった決断をしてしまったのだ。


「仕方ないわね・・・

 でも、私は旅に出る事はやめないわよ。」

 

 さっき、スライムに浮かんでいた従者の印を見て気づいた事がある。

 私がリリムからの逃走を諦めたのもこれが原因の一つなのだが・・・。


 リリムの時と同じで、彼らには葉っぱと花が描かれたマークがあった。

 しかし、その葉っぱと花に違和感があったのだ。

 

 花はトネリコで間違いないだろうが、あの葉っぱはトネリコの物ではなかった。

 描かれたトネリコは一枚の葉っぱと伸びる蔦の様な模様で囲まれていた。

 あれはアサガオの葉っぱだった。

 

 アサガオには色によって様々な花言葉が存在する。

 白いアサガオには【固い絆】や【溢れる喜び】と言った意味とは別に、もう一つ別の花言葉があった。

 子供の頃に教えてもらって恐怖したのをよく覚えている。


 その意味とは・・・。

 【あなたに私は絡みつく】



 ほんとホラーだよ!!!

 テイマーってこんな自虐職だっの!?


 職業レベルが上がったら、その時は覚えてなさいよ!!

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