第8話 やっとの旅立ち、雨のちリリム!?

 リリムの恐怖すら覚えた猛烈な追撃に、白旗を揚げる結果となってしまった。

 その結果には後悔の文字しか浮かんでこない。

 

「それなら私もついていきますね。セツナ様!」

 

 リリムは人目のない場所では口調が変わる様になっていた。

 まあ他人に見られなければ、多少の鳥肌は立つものの自尊心を満たすだけで悪い気はしない。

 

 リリムはあっさりとギルドを辞めることを宣言し、すぐに職場へと辞職を申し出た。

 

「すみません、ご迷惑をかける事は重々承知していますが、私にはやらなければならない事が出来たんです!」

  

 まぁ普通なら引き止めるよね。

 せっかく育てた新入職員がいきなり辞めるとか、普通は引き止めるよね?

 

「なんだって!?

 ・・・・・・。

 お前が辞めるのは我々にとっては痛手だが、お前の生きたいように生きてみせろ!」

 

 ギルドの支部長は本当に無駄な心意気を見せつけてくれた。

 

 それでいいのか!!?

 

 とまぁ、私のツッコミも心の奥で行き場を無くすほどの呆気無さだった。

 

 いよいよこの事実を受け止めるより他はなくなってしまった。

 だが、私だっていつまでもリリムの奇行に怯えながら旅をするつもりはない。

 

 職業レベルを上げて完全なる服従を果たし、その暁にはリリムを精一杯弄んでやろうではないか!

 

 ふつふつと、私の中に新たなる目標が湧き上がった。

 

「ところでリリム、旅をするのなら流石に受付嬢からは転職してほしいわ。」

 

 私はテイマー、自らの攻撃手段を持っていない。

 初めは少しずつ魔物を増やしていく予定だったが、仲間ができるのであれば事情は違ってくる。

 せめて攻撃をできる職業についてほしい。

 

「大丈夫よ!ちゃんと転職するから。

 それに、私も実はなりたい職業があるしね。」

 

 リリムはそう言うと、転職申請書を手に取り機械の方へと歩いて行った。

 リリムのなりたい職業とやらが気になったので後に続く。

 

 機会に手を当てて転職可能職業を眺めるリリムの後ろから、その画面を覗き込んだ。

 

【天職】

 ・賢者

 ・シスター

 ・暗殺者

【転職可能職業】

 ・盗賊

 ・闇魔道士

 ・僧侶

 ・ガイド

 ・料理人

 ・家庭教師etc

 

「賢者!?」

 

 伝説級の職業じゃない!?

 それこそ憎っくき勇者のパーティにいるかどうかのレア職業だ。

 魔導や回復、なんでもこなす魔法職の最上級職業・・・。

 

 この子にそんな才能があったの!?

 なんて憎たらしい!!

 

 でも待てよ?

 これって私がレベルを上げさえすれば、賢者を従えるってこと!?

 

「リリム、もちろん賢者よね!?」

 

 こんなの悩む事なんてない!

 

「そうね!前に見たときには無かったのに、せっかくあるならそうしようかな。

 私の成りたかった魔導師がなかったし、賢者なら魔導師の魔法も使えるものね。

 セツナの戦力としても役に立てそうだわ。」

 

 リリムは魔導師になりたかったのか。

 でも、闇魔導師があった気がするけど?

 

「さっき魔導師って無かった?」

「あの魔導師じゃないのよ。」

 

 あぁ、聖魔導師のほうか。

 攻撃魔法もあるが、主に回復やサポートがメインの魔導師だ。

 リリムがなったら確かに似合いそうな気がする。

 

「でも賢者よ?もっと喜びなさいよ!」

 

 どう考えても賢者の方が魅力的だ。

 私としても。

  

 リリムはサブ職業も選んで無事転職した。

 サブは料理人を選んだらしいが、発行されたカードにはしっかりと記載されていた。

 

 なんでも私に美味しいご飯を食べさせたいんだそうだ。

 本当に彼女気分ね。

 

 私が楽できるなら、とりあえずは良しとしておこうか。

 

 た、だ、し!

 あんたの親が許すかしらね?

 最後の砦!

 

 なんだかんだで私はまだ諦めていなかった。

 

「あら、もうギルドも辞めちゃったの?

 でも、大好きなセツナちゃんと一緒に旅なんていいわね。

 後悔しないようにいってらっしゃい。」

 

 おばさんはこれまた景気良くリリムを後押しする。


 この村の連中はちゃんと頭に脳みそ入ってるの!?

 放任主義にも程があるでしょ!

 少しは引き止めてあげなさいよ!私の為に!!

 

「貴方が居なくなるのは寂しいけど、ちょっぴり贅沢できそうだし。」

 

 なんだ、ただ生活費が浮く事を喜んで後押ししてるだけか。

 子が子なら親も親だ。

 

 こうしてリリムにはなんの障害もなく、いつの間にか村を旅立ってしまった。


 

「そういえば、セツナ様は何故村を旅立つ気になったんですか?」

 

 道すがらリリムに尋ねられたので、私は簡単な経緯を説明した。

 

「なんて事ですか!

 私の大切なセツナ様を奪おうとしていたどころか、存在を忘れた挙句に婚約破棄!?」

「最後はあってるけど、別にあんたから奪おうとしてたわけじゃないから。」


 勝手に三角関係みたいなの作らないでださる?

 

 でも、そうよ・・・勇者だわ!

 レベルさえ上げれば勇者だって、私の従者に出来るんじゃない!?


 ふふふ、また一つ楽しみが増えたわね!

 その首洗って待ってなさい!クソ勇者!!



 昼下がりの青空の下、のんびりとした暖かい空気が流れる街道を歩く。

  

 少し疲れて休憩。

 また歩く。


 少し疲れてまた休憩。

 そしていつしか山を登り始めていた。


 

 私って、一体どこに向かってるの!?

 

 全くの無計画で村を出てきたせいで、行き先なんて決めていなかった。

 

 村を出る事がある意味目的のゴールになっていたのだ。

 

「あ、雨・・・」

 

 空からポツポツと小雨が降り出した。

 すぐにリュックから雨具を取り出したが、それを着込む前に土砂降りになり始めた。

 

 リリムも相当濡れてしまっている。

 

 青々としていた空はいつしか黒く分厚い雲に覆われていた。

 

「ほら、とりあえず休めるところ探すわよ!」

 

 どこかに洞穴でも空いていないかと探しながら、私達はそのまま山を進んでいた。

 

「ちょっと待って下さい、ペースが・・・早いです・・・。」

 

 息を切らせながらリリムが後をついてくる。

 

「あんた本当に足腰弱いわね。」

「足は確かに弱いですが、腰はいつでも使えるように鍛えてますよ!」

 

「なんの話だ!!?」

 

 リリムの頭はやはり元からおかしいのは間違いなかった。

 

「あ!洞穴見っけ!!」

 

 雨が降り始めてかなり時間が経ったが止む気配がない。

 ひとまずあそこで休憩しよう。

 

「セツナ様、濡れた服を此方に出してください。そのまま着ていると風邪を引きますよ?」

 

 洞穴に入って焚き火を炊いたあと、リリムが火にあたりながら私を心配して言った。

 

「確かにそうね。」

 

 服を脱ごうとした時、おぞましい視線を感じた。

 見るとリリムが目を見開いて此方を凝視している。

 

 それが目的かい!!?

 

「あんた、今変な事考えてたでしょ。」

「変な事だなんてそんな。」

 

「言いなさい!」

「・・・セツナ様の身体をこの目に焼き付けようとしていただけです。」

 

 リリムは頬に両手を当てて顔を赤らめた。

 

「気持ち悪いわ!!」

  

 私は大きめのマントを羽織って服を脱いで着替えをした。

 

「私はこのまま着替えますから、遠慮せずに見つめてくださいね!」

 

「あんたと違うわ!」

 

 リリムの反対側を向いて寝転ぶと、後ろでゴソゴソとリリムが着替え始めた。

 

 

 カラン。

 と、私の頭の後ろで石が転がるような音がした。

 嫌な予感がして振り向くと、服を脱ぎ捨てたリリムが迫っていた。

 

「じゃけぇオノレは何をしよるんじゃぁぁあああ!!!!?」

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