第5話 リリムの部屋

 余りのふざけた回復量に声出しちゃったじゃない!

 1%ってどういう事よ!?


 これは不味いわね・・・。

 一体何%になれば眼を覚ますの!?

 とにかくMPが足りるだけ使うしかない!

 リカバリー!リカバリー!リカバリー!

 リカバリー!リカバリー!リカバリー!

 

『リリム・パトリッジの体力が1%回復しました。

 現在の体力7%』

『リリム・パトリッジの体力が1%回復しました。

 現在の体力8%』

『リリム・パトリッジの体力が1%回復しました。

 現在の体力9%』

『リリム・パトリッジの体力が1%回復しました。

 現在の体力10%』

 

『MPが不足しています。』

『MPが不足しています。』

  

 今ので4回、全部で5回分使えた・・・。

 回復量が少ない代わりにMPの消費も少ないみたいね。

 お願い!目を覚まして!!

 

「今声がしたよな?」

「したな。」

 

「誰かいるんだろ!出てこい!!」

 

 んも〜、一か八かよ!

 

「リリム!そんなところで何してるのよ!?

 大丈夫!?

 ねぇ、起きて!!」

 

 結局最初の偶然見つけちゃったテイを使うしかなかった。

 しかし、起きてくれさえすれば何とかなる。

 口裏を合わせる様に命令して何とかやり過ごすんだ。

 目を覚まさず病院なんかに運ばれて、命令出来ていない状況で目を覚まされるのはそれこそ博打だ。

 

 頭が逝っちゃったままだと大変な事になる。

 

「ん?セツナだったのか、どうしたんだ!?」


 職員の一人が駆け寄ってきた。


「リリムがここで倒れてたから介抱してたのよ!」

「何?大丈夫か!?」

 

 よし、とりあえずは誤魔化せた。

 次は起きるかどうかね。

 お願い、今ここで目覚めて!

 

「俺は医者を呼んでくるよ!」

 

 もう一人の職員は慌てて部屋を後にした。

 

「ん・・・。」

 

 その直後にリリムが反応した。

 

「リリム、起きて!」

 

 私の言葉に反応し、リリムが目を開いた。

 キョロキョロと周りを見渡して状況を確認し始める。

 

「あれ?私・・・。

 あ、セツ」

「よかった!倒れてたからびっくりしたのよ。

 あ、貴方凄い汗かいてるじゃない!

 お兄さん、ごめんけどタオル持ってきて、少し拭いてあげなきゃ。」

 

 リリムが言葉を言い切る前に遮って、職員の男性を一旦その場から引き離すよう促した。

 

「わ、わかった!」

 

 職員の男性はすぐに立ち上がりタオルを取りに走っていった。

 上手くいった。

 さあ、今のうちに手早く。

 

「セツナ様?」

「リリム命令よ、貴方は目眩で倒れていた事にしなさい、いいわね?

 それと、私の事はいつものように接してセツナと呼んで。」

 

「ですが!」

 

「もし聞けないのなら貴方を捨てるわよ。」

「り、了解です!」


 リリムは顔をハッとさせて敬礼をした。

 畳み掛けるように命令と脅しをかけてリリムの誘導に成功できたし、これでどうにかやり過ごせるだろう。

 

「タオル持ってきたぞ!」

 

 男性職員が帰ってきた。


 命令するのがギリギリ間に合ってよかった。


「ありがとう!」

 

 タオルを受け取ってリリムの額や首元を拭いた。

 

「あっ!?」

「汗を拭くだけよ。はい、あとは自分で吹いて。」

 

 リリムが変な声を出しそうになったが、私の命令を思い出したのか直ぐに口を閉じた。


 よし、そのまま大人しくしてなさい。

 リリムに視線で訴えて立ち上がる。

 

「どうやら目眩で倒れてたみたい、少し休ませてあげてくれる?」

 

「そうか、リリム無理はするなよ?

 支部長には俺から言っとくから、今日はもう帰れ。」

 

 気を利かせてくれた男性職員のお陰で、リリムは人前で醜態を晒さずに帰宅出来る事になった。

 私はリリムを家まで送るよう頼まれたので、仕方なく付き添う。


 体力がなくなった影響なのだろうが、リリムの足取りは重たかった。


 今のリリムに肩を貸すのは若干気が引けるけど・・・。

 まぁ、私の所為なんだし仕方ないか。

 

「ほら、肩貸したげるからしっかり歩きなさい。

 変な真似したら怒るからね。」

  

「大丈夫よ、貴方に捨てられたくないもの。」

 

 リリムは先ほどの命令を守って何時ものような口調で話した。

 口調はいいけど頭は治っていない様だ。

 

 とりあえず、あの状況を打破できたのだから良しとしよう。

 

 リリムの家までは特に何事もなく辿り着いた。

 昔はよく遊んだが、最近は家に行く事は少なくなっていたので久しぶりな気がする。

 

「なんか懐かしい感じがするわ。」

「就職してからは遊んだりする事もなくなってたしね。」

 

 私も家の仕事で忙しかったし、リリムも就職の為に頑張っていた。

 大人になるって大変よね・・・。

 

「ただいま。」

 

 リリムがドアを開けて家の中へと入った。

 やはり懐かしい感じだ。

 

「あれ、これって写真?」

 

 玄関を入ってすぐの靴箱の上にそれは置かれていた。

 リリムとリリムの両親が写っている。

 

「ええ、就職してから私がカメラを買ったの。

 そのカメラで撮った家族写真よ。」

「あんたカメラなんてそんな高価な物よく買えたわね!?」

 

 カメラは魔石に特殊な加工を施し、映像を記録することの出来る魔道具だ。

 そのカメラで記憶した写真を、別の魔道具印刷機によって紙に転写するのだ。

 

「昔からコツコツお小遣いを貯めてたのと、就職して3ヶ月分のお給料を全部使っちゃった。

 でも、私の唯一の楽しみなの。」

 

 自称乙女と言うだけあって、随分と素敵なご趣味をお持ちの様だ。

 

「あら、リリムどうしたの?

 セツナちゃんもお久しぶりね。」

 

 おばさんが奥から顔を出してきた。

 

「お久しぶりです。

 リリムの体調が優れなかったので、ギルドの人に頼まれて家まで送ったんです。」

 

「あらそうだったの、ありがとう。

 リリム、大丈夫?

 お母さんちょっと用事で出かけてきてもいいかしら?」

「私は大丈夫だから行ってきて。」


「セツナちゃん、リリムと仲良くしてあげてね。

 この子貴方の事大好きなんだけど、最近遊べないって拗ねてたから。

 それじゃあ、私は行ってくるわね。」

 

 おばさんはそう言うと、そそくさと家を出て行ってしまった。

 

 おばさん、私が大好きなのは今現在大正解ですよ。

 

「それじゃ、私もこれで」

 

 別れを告げてリリムの手を肩から外した途端、リリムはその場に転んでしまった。

 

 ・・・・。

 

「部屋までは連れて行くわ。」

「ありがとう・・・。」

  

 リリムを起こして二階にある部屋まで連れて行く。


「セツナに部屋を見られるのは、ちょっと恥ずかしいな。」

 

 リリムは何故か顔を赤らめている。

 

 乙女か!!

 いや、自称乙女か・・・。

 

「昔はよく遊んだんだから、今更恥ずかしがる事ないじゃない。」

 

 リリムの事を完全に無視して部屋のドアを開けた。

 ピンクだった壁紙が変わっており、少し違和感を覚えたがそのままリリムを連れて入った。

  

「な・・・・!!!?」

「きゃ❤︎!!」

 

 なんと壁一面に写真が飾られていた。

 それはもう所狭しと天井までビッシリと・・・。


「これ、もしかして全部!?」

 

「私の大事なセツナ達よ!」

 

 それらの写真には、全て私が写されていた。

 農作業中や、食事中、散歩や昼寝・・・。

 何故かお風呂場まで盗撮されているではないか!!?


 さっきのカメラの件で、私が思った素敵な趣味とは全くもって違うんですけど!!


 この子もしかして、初めから頭がイカレてたの!!!?

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