第2話 テイムって人にも出来たんですね。

「何やってたの!?」

 

 リリムがすごい剣幕で向かってくる。

 あらら、可愛らしい顔がだいなしだぞ。

 

「そんな怖い顔しないでよ〜。

 誰もいなかったから一人で転職申請してしてただけよ!」

「いやいや、威張んなよ。」

 

 リリムは肩を落として若干呆れている。

 

「誰もいない方が悪いわよね?」

「勝手にやる方が悪いと思うわよ?

 まぁアンタなら仕方ないわ。

 で、どこまでやったの?」

 

 リリムは諦めて自分の持ち場へと座った。

 とりあえず作ったカードを渡して説明する。

 

「マニュアル置いてあったから発行まで終わっちゃった。」

 

 テヘ。

 

「はぁ〜、ほとんど終わってるじゃない。

 ちょっと見せてもらうわよ。」

 

 リリムは発行されたカードを手に取って確認し、何やら別の書類を書き始めた。

 

「ギルドへの登録をすませるから少し待ってて。

 この職業って何?初めて見たわ。」

 

 捕縛調教師のことだろうか?


「テイマーになりたかったんだけど、一覧に見当たらなかったのよ。

 おんなじ事できそうだからそれにしたの。」

 

 やっぱりあれはテイマーではなかったのか・・・。

 少し後悔する。

 

「テイマーねぇ。

 確かに意味合いはおんなじ様に感じるけど、私はテイマーは見たことあっても捕獲調教師ってのは初めて見たわ。

 まあ人によって機械的な表現が違ったりすることもあるからそのせいでしょ。

 武闘家とか格闘家みたいにほとんど同じ職業もあるしね。

 スキルにテイムと使役みたいなものがあれば一緒じゃない?」

 

 リリムは説明しながら淡々と事務処理を進める。

 なんか出来る女みたいに見えてちょっと妬ましい。

 

「覚えたスキルってどうやって確認するの?」


 リリムは少し手を止めて私を見る。


「その辺はわかってないのね。

 目を閉じてステータスを表示する様に念じて集中してごらんなさい?

 表現が難しいけど、目の前にウインドウが現れるわ。」

 

 スキルってそうやって確認するのか。

 今まで村娘だったのでスキルとは全く無縁だった。

 言われた通りに目を瞑ってみる。

 

「ステータスでろ〜!!」

「言葉にしなくていいから・・・。」

 

 すると、確かに目の前?にウインドウが表示された。

 書かれているのは


職業【捕獲調教師】

LV:1

MP:15

SP:30

その為

 そしてその横にスキル、魔法の欄がある。


「レベルって、職業のレベル?」

「そうよ。」

 

「このMPとSPって何?」

「マジックポイントとスキルポイントよ。

 魔法やスキルを使うと減少するの。

 使う魔法やスキルによって使用する量が変わってくるわ。

 強いものほど沢山のポイントを使用する。

 自分のMPやSPを超えるものは使えないわよ。」

 

 なるほど、わかりやすい。

 今のうちに聞けることは聞いちゃおう。


「このスキルと魔法って欄に使える物が表示されるわけね。」

「えっ!?魔法の欄があるの?」

 

 リリムが驚きの声をあげた。

 私もびっくりして目を開ける。

 

「あるけど?」

 

 MPがあるんだしあるんでしょ?

 自分で言ってたじゃん。

 

「セツナ、MPは0じゃないの?」

「確か15だったわね。」

 

 リリムは首を傾げた。

 

「おかしいわね、テイマーや遊び人なんて魔法は無かったはずだけど。

 魔法を使えない職業だとMPは0だし、魔法の欄なんて表示されないはずなんだけどな。

 もしかしたら何か魔法が覚えれるのかもね。

 試しに詳細を見てみてよ。

 さっきの状態から魔法の欄を開く様に集中すれば詳細が見られるわ。」

 

 リリムに言われて目を閉じる。

 さっきの様にウインドウが現れて魔法の欄に集中した。

 魔法の欄の横に習得魔法一覧と表示されたが、魔法は何も表示されていなかった。

 

「魔法の表示はないわね。

 これから覚えるって事かな?」

「そうかもしれないわね。私にもわからないわ。」

 

 まあ覚えるならその内わかるだろう。

 今は気にしないでおこう。

 引き続いてスキルの詳細も確認してみる。

 魔法と同様に習得スキル一覧が表示され、そこには2つのスキルがあった。

 【捕獲LV:1】

スキル詳細:対象を捕獲する。

 【調教LV:1】

スキル詳細:捕獲した対象に従者の印を刻む。


「あ、スキルは2つあったわ。

 捕獲と調教だって。

 捕獲調教師、つまりテイマーのスキルよね!」

 

 私は目を開いた。

 リリムはまた難しい顔をしている。

 

「私の知ってるテイマーは、最初はテイムってスキルしか持ってなかったと思うけど。

 捕獲してから従えるって事かしらね?

 面倒臭そうなスキルね、テイマーの劣化版なんじゃない?」

 

 げ、そうなのか。

 でも同じ事できるんでしょ?

 

「使ってみなくちゃわからないじゃない!」

 

 腹いせに捕獲してやろうか?

 私は冗談交じりにスキルを使ってみた。


「捕獲!」

 

 右手を広げて叫ぶと、手から赤く細長い紙の様な物がヒラヒラと飛び出しリリムに巻きついた。

 

「ちょっと、冗談はやめてよ。

 しかもこの紙なに?

 ん、思ったより硬いわね・・・えい。」

  

 リリムが力を入れると、紙は破れて霧散した。

 

「ごめんごめん、初めてのスキルだから使ってみちゃった。」

「もう、そもそもテイマーは人をテイムなんてできないわよ。変な冗談やめてよね。」

 

 そう言えばスキルの詳細に何が対象になるのか書いてあったっけ?

 目を瞑って再びステータスを開いてみたが、SPが残り20に減少している事以外では特にそれらしい事は書いてなかった。

 

 代わりにその他の項目に


 捕獲成功数:1

 現在捕獲数:0

 調教成功数:0

 従者数:0

 

 と表示されている。

 さっきの捕獲成功してるじゃん。

 ひょっとして、さっきの紙が巻きついた状態が捕獲?

 その状態なら調教できるのかも。

 

「ねえ、ちょっとだけ試させて。」

 

 リリムにお願いしてみる。

 怪我をさせる様なスキルではなさそうだし、幸いあのバカ勇者の凱旋中で誰もいない。

 

「え〜、まあいいけど、人はテイムできないわよ。」

 

 お、案外許してくれるものね。

 

「では改めて、捕獲!」

 

 先ほどと同じように紙が飛んでいき、リリムに巻きついた。

 

「からの〜、調教!」

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 リリムが全身を震わせながら声を上げ始めた。

 げっ、大丈夫だろうか!?

 てか、効果があるの?

 数秒でリリムの震えは治った。

 

「はぁ・・・はぁ・・・。

 何今の、アンタ!なんて事すんのよ!!」


 同時に頭にテロップが浮かび上がる。


『調教に失敗しました。』


 あ、やっぱり人には効かないみたい。

 目を閉じてステータスを見ると、残りSPが5になっていた。

 捕獲で10減ってたから、調教は5しか使わないのか。

 もしかして、何回か使えるように消費が少ない?

 

「調教!!」

 

 もう一回使えそうだし、リリムには悪いけど試してみよう。

 我ながら酷い奴よね。

 

「あああああぁぁぁぁぁ・・・・」

 

 リリムはまた身体を電気が走ったように震わせながら叫び始めた。


 「ぁぁぁぁああ・・・・あぁん❤︎」

 

 ん!?

 最後声色可笑しかったわよ?

  

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 目を細めて此方を睨んでいる。


 睨んでいる?

 なんか目尻が下がっているような?

 とろけた様な目をしているような?

 

「セ・・・セツナ・・・様❤︎」


 その時頭にテロップが浮かび上がった。


『調教に成功しました。』


 やってしまったぁぁぁあああ!!!!!

 ・・・・・・・。


 テイムって、人にも出来たんですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る