勇者に婚約破棄されたので村娘から憧れのテイマーになったけど、テイムって人にも出来たんですね。

三羽 鴉

序章

第1話 婚約破棄

「ごめん、君誰だっけ?

 約束って・・・覚えてないや。」


 勇者ハイゼルは面倒臭そうな顔で首を傾げた。

 それを聞いた私は、泣きながらその場を走り去ってしまった。

 

 あれは3年前の事だった。

 当時駆け出しの勇者だった彼がこの村を訪れた時、家を宿代わりに提供していたのだ。

 

 数日間この村を拠点に活動していた彼とは話す機会も多かった。

 

 次第に彼の人柄に惹かれて恋をした。

 別れ際に彼は確かに言った。

 

「魔王を倒して世界が平和になったら、君と結婚したい。

 必ず迎えに来るから、今のままの君で待っていてほしい。」

 

 と・・・。

 あの時は私も彼もまだ17歳だったが、そんな事は関係ないと思ってた。


 彼がいつ帰って来てもいいように、毎日身体のケアを欠かさずに過ごし、スタイルも変わらないよう努力していた。

 

 毎日の農作業だってそれを想えば苦でもなかった。

 

 なのに、それなのに・・・・。

 

「私の玉の輿婚を返せぇぇぇえええええ!!!!!」

  

 勇者ハイゼルは魔王を倒して世界を平和にした後、王様から領地と絶対的な地位を得て世界の国々を凱旋していた。

 

 この村を訪れるのを心待ちにして、彼の下へと向かったのに・・・。

 

「こんちくしょー!!!!!」

 

 私の叫びは自宅横にある空っぽの壺の中で木霊して消えていく。

 

 あの勇者、相当な数の女を連れて凱旋していた。


 何?私への当てつけ?

 覚えてもないってどういう事?

 

 今まで私を繋ぎとめていた大切な何かが壊れた気がした。

 

「よし、この村に留まる理由もなくなったし、農家の村娘なんて辞めよう!」


 彼女は案外能天気だった。

 婚約を破棄された現実からすぐに吹っ切れていた。

 

 幸いウチには兄のシュルツと弟のノイルがいる。

 父と母の面倒は二人に見て貰えばいいし。

 放任主義の二人なら何にも言わないだろう。

 

 畑へ駆け出して父と母の下へ向かう。

 

「二人とも〜、私旅に出てくるから〜。」

 

 両親を見つけて声を上げる。

 急な話にキョトンとした顔でお互い顔を合わせている。

 

「そ〜か〜、えらい急な話だの〜。

 セツナ〜、腹さ減ったら帰ってくるだど〜。」


 しかしあっさりと許しをもらった。

 流石私の親、物分かりがイイネ!


 そうと決まれば準備準備。

 旅立ちにはリュックが必須。

 リュックに着替えに寝巻きに財布。

 化粧道具と生理用品これ大事。

 頭とかお腹痛くなったりしたら困るから錠剤も忘れずにいれて。

 歯ブラシとコップを持って・・・・。

 

 こんなもんかな!

 

 入れるだけ入れたらリュックはパンパンに膨れ上がった。

 あまり重たいものは入れてないはずだが、10kgはありそうだ。

 

 農家の娘にはなんて事ない重さだけどね!

 

 私はリュックを背負って家を飛び出した。

 村の外れに勇者ご一行が見える。

 

 私はそこに向かってあっかんべーと舌を伸ばして中指を立てた。


 私を振った事、後悔させてくれるわ。

 

 その集団に背を向けて、私はギルドへ走った。

 もう村娘でも、農民でなくてもいいんだ。

 

 私はギルドで転職して、憧れのテイマーになってやるんだから!

 

 

 ギルドとは、各種の職業で結成された冒険者組合である。

 クエストを受注したり、仲間を募ったり出来る冒険者の拠点とも言える場所。

 また、ギルドでは転職支援も行っており、様々な職業に転職することができる。

 

 そして、私は憧れていたテイマーに転職するのだ。

 魔物を使役するスキルを獲得できる。


 農家の敵である魔物を操るなんて、なんて素晴らしい能力なんだろう!

 子供の頃から気になっていた職業だ。

 

「頼もー!」

  

 ギルドの扉を開けて中へ入る。

 勇者の凱旋中と言うだけあって中はガラガラだ。

 

 というか、誰もいない。

 受付の一人くらい置いといてくれてもいいのに。

 あんなクズ勇者を見に行っても何の得も無いわよ。

 

「ん?」

 

 受付の机の上に転職申請書なるものが置かれている。

 その横には手続きマニュアルと書かれた紙まで置いてあるでは無いか。

 

「ラッキー!リリムったら、私の為に置いておいてくれたのね。」

 

 リリムとは、ここのギルドで受付をしている幼馴染だ。

 最近就職して、今はもっぱら新入社員奮闘中。

 おそらく普段使っているマニュアルをそのまま置いていたのだろう。

 

「何々、まず転職申請書を記入。次に内容を確認して受付横の機械にセットする・・・か。」

 

 マニュアルを手に取りながら申請書を記入する。

 転職できる職業は機械に手を当てると表示されるので、その中から選ぶ。

 

 げっ!?

 転職って適正とかあるの!?

 もしテイマーがなかったらどうしよう。

 

 ・・・・・・。

 その時考えるか!

 

 マニュアルに沿って機械に手を当てると、ガラスで出来た画面に文字が浮かび上がった。

 

【天職】

 ・遊び人

 ・奴隷商人

 ・捕獲調教師

【転職可能職業】

 ・戦士

 ・鍛治師

 ・釣り師

 ・庭師

 ・調理師

 ・家政婦etc

 

 なんか色々出てきたが、天職が一番向いている職業の様だ。

 転職可能職業は画面数ページ分もある。

 

 思ったより色んな職業が選択できる様だ。

 が、テイマーが見当たらない。

 

 見当たらないけど、天職にある捕獲調教師ってテイマーのことじゃ無いだろうか?


 意味合い的には合ってるよね?

 ならこれでいいや!

 えっと、職業を選んだら・・・。

 あ、サブ職業ってのがあるわね。

 

 マニュアルによると、適正があれば必ずでは無いがサブ職業のスキルも使えるようになるので記入すると書いてある。

 

 奴隷商人って、そんな趣味はないので遊び人にしとこうかな。

 よくわかんないけど天職だし。

 なんか楽そうだし。

 

 一通り申請書を記入して、受付横の機械にセットする。

 あとは機械に付いている球体部分に手を当てるだけ。

 

 簡単ね。

 

 手を当てると用紙が機械の中へと入っていき、少し厚めの金属でできたカードが出てきた。

 

 名前や職業等が記載されている。

 職業欄には捕獲調教師、サブ欄に遊び人と書かれていた。

 

 これって、サブ職業も備わったってことだろうか?

 

「あ〜!!!」

 

 その時リリムが帰ってきた。

 

「やっほ〜。」

「やっほ〜。

 じゃないわよ!何やってんの!?」

 

 こっそり転職しておさらばしようと思っていたが、バレたなら仕方がない。

 

「ごめんなさい。」


 とりあえず謝っておこう。

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