第32話 奇病の聞き込み
服屋を後にし街中を散策していると、少し並んでいる喫茶店を見つけた。立て掛けてある看板には、何やら数量限定のケーキについて書いてある模様。
折角なのでニムにケーキを食べさせてあげようと思い列に並んでいた。その後、思っていたよりも早くの入店に成功。
店員からメニューを受け取り、ショートケーキを俺とニムとディーネの分で三つ頼んだ。
消化器官がないダイにとってはただのお預けプレイになってしまうが、そもそも味覚がないので大して興味がないとダイは語る。
それからしばらく経ち、店員がケーキを運んできた。
初めてケーキを見たニムは、匂いを嗅いだり、フォークでつついたりと初見相応の反応を見せる。
「これは、一体……?」
警戒して中々食べないので、俺の分を一口食べさせてみると、
「あ、甘いです……」
ニムに電気が走った。
ケーキの味を知った後は、もう速いのなんのその。
みるみるうちにニムのケーキが無くなっていき、食べ終わった後には物欲しそうな目でこちらの分を見て来た。
わかりやすくヨダレを垂らすニムに、つい笑みが零れてしまう。
「良いよ。俺の分食べて」
「え? で、でも……それはレイさんのですし……」
そうニムは断るが、視線はバッチリとケーキに釘付けになっていた。
ケーキの乗った皿を左右に動かすと、それと一緒にニムの視線もついて来る。
面白いなぁ……とほっこりした後、ケーキをニムへと無理やり譲渡した。
「あ、あの……ほんとに良いんですか?」
「おう、遠慮すんな」
「で、では……いただきます……」
腫れ物に触るかのようにケーキを受け取ったニムはそっとフォークを差し入れそのまま一口。
そしてニムの周囲に花が咲く。
幸せそうなニムを見ていると、無意識に笑みが零れてしまう。
「あ、あの!」
「ん? どうした?」
一口分が刺さったフォークを持ったニムに呼ばれる。
一体何が始まるのかと思ったその時、ニムが手に持ったフォークをこちらに向けて来た。
「どうぞ!」
どうやらくれるらしい。
俺はニムからのケーキをありがたく頂いた。
クリームやスポンジの甘さが口の中に広がっていく。
「ん、美味しい」
「良かったです!」
にへらとニムが柔らかく微笑む。
一人で食べる時より美味しいと感じるのは、きっと気の所為ではないだろう。
俺とニムが幸せの真っ只中ーにいると、一人静かにショートケーキを食していたディーネが、
『……イチャつくならよそでやれなの……』
そう愚痴を零した。
別にイチャついてる訳ではないのだが……と言う俺の不満はきっと聞き入れて貰えないだろう。俺は半目のディーネに苦笑いを返すことしか出来なかった。
ディーネからニムへと視線を戻すと、空いた皿と満足そうなニムの姿が。どうやらもう食べきってしまったらしい。
けぷっと小さいげっぷをするニムを微笑ましく眺めつつ、まったりとした平和な時間を楽しんでいた。
「ねえねえ、さっき近くの路地裏で気絶してる男の人が見つかったんだって~」
「うっわ……物騒だねぇ……」
意外と平和でも無かっ──いや、今の話の犯人は俺だ……。
背後で話している若い女性達に向けて、俺は謝罪の念を送った。
「それとさぁ……今流行ってるじゃん? アレ」
「ああ、あの変な病気ね」
「知ってる? あの病気って街外れの家の子から広がり始めたらいよ?」
「街外れって……子供だけで暮らしてるって言うあの家? やっぱり孤児は嫌ねぇ。不潔だわ」
背後から今度はそんな情報が流れて来る。
ひょっとしなくても、後ろの人達が言っていた孤児とはコウ達の事だろう。しかも話に聞く限りだと、ユウさんが患っている病気が周囲に広まっているようだった。
これは話を聞くしかないなと結論を出した後、ニム達を先に退店させた。きっとまた浮気を疑われるだろうが、それを代償に情報が手に入るなら安いものだ。ニムを不安にさせてしまうのは心が痛くなるが、どうか今は我慢して貰いたい。
「あのーすいません……」
そんな謝罪の念抱えながら、俺は女性二人に声をかける。なるべく警戒されないよう、へりくだった態度をとる事に専念した。
振り向いた女性達は何故かとてもにこやかだ。
「どうしました? あ、もしかして道に迷ったりとか?」
「あー……そうではなくてですね。今話していた病気について聞きたいな〜と」
俺の質問に二人は一度顔を見合わせた後、呆れた様子で答える。
「まあ正直なところ病気って言うより、虫食い? 肌がだんだん黒ずんでいってさー」
「そうそう。その後に熱が出たり、吐いちゃったり。今は子供にしか発症してないらしいけど、こっちの方にも来てるらしいし……君も念の為注意しといた方が良いよ?」
聞き間違いなどではなく、本当にユウさんの病気が広まっているらしい。
俺は頭の中で原因を色々と考察しながら、
「なるほど……。ありがとうございます」
女性二人にお礼を言って店から去った。
一応感謝の印として会計の時にケーキを女性二人宛に奢らせて貰ったが、もっと高い物をあげた方が良かったかもしれない。
頭の中で返礼の品について一人議論を行っていたが、ニムとディーネの顔が見えたので一旦考えるのをやめた。
「悪い二人とも。待たせちゃったな」
「いえいえ。さっきまでお店の前を通る人間の数を数えていたので大丈夫です」
暇つぶしに通路状況調査とはまたレベルの高い事を……。
やっぱりニムは面白いなと思いながら、俺は小さく笑った。
「……急に笑い出してどうしたんですか?」
「いや? 何でもないよ。じゃ、そろそろ出発しよっか」
「次は何処に行くんですか?」
「そうだな……」
邪精霊についてはまだ何も足取りが掴めていない。
コウ達が戻って来るまではクエストにも出るわけには行かない。
ならば何をしようか……と悩んでいた最中、俺の中である場所に白羽の矢が立った。
「──よし、闇市場にでも行ってみるか」
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