第31話 ニムは服の着方が分からない。あとは察して

 ニムを宥めつつも、何とか服屋まで辿り着いた。

 街中で見かける様な普通の服が売っている店だ。

 セリカさん曰く、この店は値段の割にデザインが良く女性人気も高いとのこと。

 心の奥で期待している反面、ニムならどんな服でも似合そうなので買い物がすぐ終わってしまうのでは? と言う不安もない事は無い。


「さてさて、どんな服があるのかな〜」


 俺が鼻歌を歌いながら物色していると、後ろで見ていたニムが不思議そうに尋ねてくる。


「あのレイさん? なんで女物の服を漁ってるんですか? もしかして女装とかに……」


 ニムのおかしな誤解に思わずクスっと笑ってしまった。

 女の子の服装についてはまだまだ教育が必要そうだ。


「違う違う。ニムがこれを着るんだよ」

「私……ですか?」

「そっ。ずっと俺の冒険者服を着てるのもね」


 渡した服を不思議そうに見るニムにそう答える。

 ニムはやっぱり理解し難いと言う顔をした。


「私は別に良いですよ。服なんて着れれば何でも良いです」

「まあそう言わずに。女の子たるもの、オシャレの一つでもしとかないと好きな男に振り向いて貰えないぞ?」


 なんて冗談を言ってみると、ニムが凄まじい勢いで服を脱ごうとした。

 突然何事かと俺が止めに入ると、


「“おしゃれ”すればレイさんと結婚出来るんですよね!?」


 鬼の形相のニムがそう告げて来た。

 そう言えばニムの好きな人って俺だったなと、何故か忘れていた情報を思い出す。

 懸命に服を脱ごうと頑張っているニムを見ながら、俺はオシャレしたニムを想像してみた。


 ──絶対モテるだろうなぁ……。


 可愛さはかなりの罪と言うことを俺は学んだ。

 俺は魅力について考えながら、未だに衣服と格闘しているニムを見る。

 そろそろ助けてあげた方がいいだろう。


「ディーネ、ニムの服脱がすの手伝ってくないかな?」

『……ディーネもやり方しらないの……』

「えっ?」


 衝撃の事実に耳を疑った。

 この場にいる女性はディーネしかいない。そして、そのディーネも服の脱がし方を知らないと。

 つまりはつまり、この場にいる中でまともに衣服の着脱が出来るのは俺だけと言うことに……。


『れー……頑張るの……』

「待って。ちょっと待って」


 期待の眼差しで見てくるディーネに、俺は制止の意を示す。

 だが、ディーネは止まらなかった。


『別に夫婦なんだから恥ずかしがる事ないの……ググッといけー……』

「なんかいつもより活き活きしてない? 俺の気の所為?」

『れーの気の所為……。それより早くするの……』


 腰の下を力強く押され、試着室の方まで無理矢理案内される。

 キラキラした瞳のディーネに押し切られたのち、ニムと試着室で二人きりになってしまった。

 服の襟を頭に被った面白い状態のニムを前に、これからする事を想像した俺の心臓が暴れだす。


「と、取りあえずボタンから……。ニム、一回服戻すよ?」

「はい。どうぞ」


 ニムの承諾を受けた後、襟を首元に戻し服のボタンを外していく。

 その下からニムの素肌と、少し膨らみのあるお山が覗き出した。なんて強すぎる刺激だろか。

 心臓をうるさく響かせる俺に対し、ニムは何とも無いような平然とした顔を見せている。


「レイさん、顔赤いですけど大丈夫ですか?」

「ああ……うん、俺は大丈夫。ちょっと後ろ向いて貰って良いか?」

「わかりました」


 ニムが俺に背を向けたので、そのまま上を脱がす。その後に試着用に持ってきた白のブラウスを着させた。

 ボタンを付けなきゃいけない俺の冒険者服とは違い、白ブラウスは袖を通すだけなので、ニム一人でもすぐ着れるようになるだろう。


「よし……何とか上は終わった。次は……下か……」


 今回の最難関ポイントだろう。

 ただ、パンツを履いてる分にはまだ胸より刺激は少ない──と思ったが、嫌な予感が背筋を走った。

 俺の中でエマージェンシーコールが鳴り響く。

 まさかまさかと、俺は尋ねた。


「な、なあ、ニムって下着履いてるのか?」

「したぎ? それも服なんですか?」


 ──やっばいこの子ノーパンだわ……。


 思わず口に出そうになったその一言を飲み込み、俺はそっとニムから顔を逸らす。

 つまり、ニムが履いてる俺の長ズボンを下ろせば、ニムの桃尻しかりニムのニムしかりが丸見えになってしまうと。

 やばいの一言しか出なかった。


「に、ニム。俺が履き方教えるからさ、下は自分で履いてくれないか? 」

「私でも出来ますか?」

「出来る出来る。簡単だよ」


 そう言ってから紺色のジャンパースカートを渡し、今度は俺が背を向けた。


「それで、私はどうすれば良いですか?」

「えっとな……スカートの腰あたりにホックって言う鉄みたいなやつで出来たパーツがあるんだけど、分かるか?」

「ああ、これですね。これは……横に引っ張れば……あ、取れました」


 予想外の出来事にニムが小さく声を零した。

 どうやらホックの仕込みを感覚で理解したらしい。


「ホックが取れたら一回スカートを置いて、俺のズボンを脱いでくれ。ズボンにもホックがついてて、前にあるから」

「なるほど……レイさん、レイさんのズボンにほっくとは別の金具がついてるのですが……」

「それはチャックだ。鉄のヒラヒラしてやつを下ろせば脱げるようになる」


 俺がそう言った後、ジーッと言う音が聞こえて来た。問題なく下ろせているようだ。

 それからすぐに、ストンと言うズボンが落ちる音がした。


「よし、じゃあ最後にスカートに足を通してくれ。そしたら後は俺がやる」

「わかりました」


 俺に返事をした後、すぐさまニムがスカートを着始める。

 今更だが、服がニムの肌に擦れる音を聞いてドキマギして来た。

 でもそれ以上に、ニムのオシャレした姿に期待で心が踊っている。


「レイさん。終わりました」

「分かった。さてと、どんな感じに──」


 ワクワクしながら俺は振り向くが、その瞬間にクスッと笑ってしまった。


「な、何か変でしたか?」


 不安な顔でニムが聞いてくる。


「ニム、スカートが前後ろ逆だよ」

「え? あっ……そうだったんですか……。すみません、間違えちゃいました……」


 そうしょぼんとしながら言ったニムの頭を一度撫でた後、スカートの前後を直しておいた。

 正しく着服したニムの姿は、俺の視界を奪うには十分過ぎるくらいの可憐さを放つ。


「うん、可愛い」

「そ、そうですか? ありがとうございます……」


 照れた様子のニムが、俯きがちにお礼を言った。

 裸は見られても平気なのに、褒められたりすると照れてしまう。ドラゴンの感情は中々に難しい。

 そんな事を考えながら、ロリータファッションに身を包むニムを見ていた。本当によく似合っている。


「これは買いだな」

「かい? ですか?」


 不思議そうに首を傾げるニムに「おう」と一言返した。

 それからニムにまた服を脱いで貰い、別の服を着てもらう。

 服の着方を教えたおかげか、ニムが一人で着替え出来るようになっていた。素晴らしい成長スピードだ。

 それから外出用と部屋着用を二着ずつ来てもらい、結局全部買った。

 目的も果たしたので店の外に出ようと足を進めていると、ディーネが服を引っ張ってくる。

 振り向いて、どうしたのかと問うと、


『これあげるの……』


 水色に白いラインの入った腕輪を渡された。


「これは……?」

『何も気にせず身につてればいいの……その内役に立つ……』

「……そうか」


 よく分からないが受け取っておいた。

 確証はないが、四大精霊が役に立つと言ったのだ。きっと必要になる時が来るのだろう。

 腕輪をはめてみると、サイズはピッタリだった。

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