番外編 領主ガイン=ティスキン

 神話時代─

 幾多の神が己の力を示したいのと暇潰しのために争いを起こし、世界を滅ぼさんとする勢いで戦いあっていた時代。

 力を得るため禁忌に手を染め邪神に堕ちる者もいれば、手にした力の強大さのあまりに理性の無い怪物と化した者も現れる程の修羅と化した時代。


 ルールなど無い単なる殴り合い─


 神の力に当然大地は荒れ狂い、モンスターと人間の始祖である動物や原人達も大部分が滅んで行った。

 だが、当の神達はそんなの知らんと言った様子で争い続けた。


 もちろん、これをよしとしない神もいた─


 竜乃神…又の名を神竜バハムートは、このあまりにも下らなく、神らしからぬ滑稽過ぎる戦いに終止符を打つため、いつか覗いた世界で見た『ゲーム』と言う遊戯を神達に提案した。

 思うままに力を振るう事に飽きていた神達はバハムートの提案に乗り、『ゲーム』のための『ルール』を定めた。


 ─ルール─



 一つ─当神達による力の行使を禁じる。


 一つ─争いをする時は『コマ』を用い『コマ』を育成し、その力の優劣を競う事とする。


 一つ─いかなる『コマ』へも直接的な接触はしてはならない。しかし、『コマ』への力を付与は可とする。


 一つ─『コマ』への力付与を『スキル』と呼称する。『スキル』を授ける際は、世界の均衡を崩しかねない程度の『スキル』を付与する事。ただし『コマ』が滅びる事がないよう、各神に一度だけ強力な『スキル』を付与する事を可とする。


 一つ─『コマ』とする種族は、最弱の種族であり最も短命な『人類』のみとする。


 一つ─勝敗は『コマ』の育成度を数値にし、総合評価が高い者を勝者とする。


 一つ─以上の事を踏まえて、あくまで遊戯の範囲として争う事。


 ───


 ルールを用いた遊戯は神達の退屈を凌いでいった。

 荒れ果てた下界の地も、広大な海と緑豊か大地に恵まれ、残った始祖達はモンスターへと、そして人類は『コマ』となり発展していった。



 ***



 緑豊かな大地が広がるエルガレンタ大陸。

 大陸最大の王国─ライオット王国のティスキン領にて、領主であるガイン=ティスキンは頭を悩ませていた。

 気晴らしに読んでいた『エルガレンタ創世記』を本棚に戻し、屋敷の中でも一番広い自身の書斎で、ある書類と格闘している。


「…よりにもよってカセンの町の近くに…」


 カセンの町─人口百人…いや、五十人未満の小さな町。最早村と言っても良い気がするが、かつてはそこそこ賑わっていたため『町』という言葉を残している。

 町人のほとんどが低ランクの冒険者か農民などであるが、周辺のモンスターもFからSSS級まであるモンスターランクの中でFかE級のどちらかと低ランクモンスター揃いだった。なので今まで問題は無かったのだ。極稀にCかD級のモンスターが来る事があるが、上手く追い払ってるらしく、討伐報告こそ来ないが被害報告も来ない。

 しかし、そんなカセンの町に危機が迫っていた。


「突如現れた地下迷宮、かぁ…」


 そう、地下迷宮である。

 モンスターランクA級が雑魚のように這い回り、場所によってはS級、運が悪いとSS級またはSSS級のモンスターに遭遇する。

 ガインも調査のため、王国に申請し騎士団に調査を依頼したが、結果は惨敗。

 入った途端A級のシャドウストーカー十匹とA+級のビッグスパイダーにやられてしまった。

 調査目的で編成されたとは言え、騎士団でこの有様なのだ。

 カセンの町に被害が出る前に何としても調査を終え、王国にカセンの町の防壁建設を申請しなければならない。

 町人の避難を優先したいところだが、距離が遠い挙句、道も入り組んでいて、そう一斉に馬車を送れないのである。

 しかし調査は進まず、ついこの前にはクエストランクが決定されてないからと、密猟をし始めた冒険者も出たと聞いた。迷宮の地図も無い状態での攻略など、自殺行為に等しいのでやめて貰いたい。

 一向に進まない迷宮探索に、相次ぐ不正事項。ガインが頭を悩ませ、十円ハゲを進ませる理由には十分納得行くものだろう。

 ガインは早急な対処のため、一昨日から一睡もせず書類と向き合い始めたが─…


「ハゲるの決意して仕事始めた瞬間、これだからなぁ…」


 手元にあるのは、『迷宮調査報告』と書かれた書類。しかも国からでは無く、あのカセンの町から送られて来たものだ。言葉は悪いが、弱い人しかいないあの町でどうやって調べたのかが全くの謎である。もしかしたら、あの町に実は物凄く腕のたつ冒険者がいるのかとも思ったが、調査報告した冒険者のランクはF級。最低ランクである。

 報告書にも、「シャドウストーカーはツンデレ」だとか「最奥に死にかけのドラゴンがいた」とか信憑性の怪しい内容だった。

 いたずらと思うのが妥当かもしれないが、猫の手も借りたいこの状況では、この報告書を情報源にする他無かった。

 ガインはカセンの町からの報告書を見ながら、王国宛の書類を書き始める。


「はぁ…頑張ろ…」


 後頭部をポリポリとかき、コーヒーを一口啜った後、ガインは書類仕事に精を出した。

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