第11話 冒険者三人組 その二
コウは事情を全て話してくれた。
彼には二歳下の妹がいるらしいのだが、つい2ヶ月前にその妹が突然奇病を発症したらしい。
医者には見て貰い、薬を出して貰ったが全く効かず、ブロウの回復魔法もダメ元でかけて見たが効果が無いとの事だ。
「それで、コウの妹…えっと名前…」
「ユウだ」
「ユウさんにも効果のある薬を作るため、素材用の資金集めをしていた…これで良いか?」
「ああ…」
晴れない顔でコウは頷いた。
この三人が何のために密猟をしていたかが分かったが、想像していた以上に深刻な問題だった。
「ユウさんが患ってる病の名前は何なんだ?」
「分からない。街の医者に調べて貰ったが、ユウの症状に当てはまるものは無かった…」
「症状は?」
「酷い発熱と嘔吐に、体の至る所に黒い痣が」
「黒い痣…」
コウの言葉に首を傾げる。
黒い痣が出来る病気なんて聞いた事が無かった。
新種の病ともなれば、薬を作るのに何年かかる事やら。親友印の回復薬を使えばおそらく一発で治るだろうが、この三人の破れた鼓膜を治すのに最後の一本を使ってしまった。
あの回復薬を作るには最低でも二ヶ月掛かるので、いつユウさんが絶命してしまうか分からない今、時間の掛かる策は避けた方が良い。
「なあ、薬に必要な素材って何なんだ?」
「…ペガサスの羽と、フェンリルの爪…それと、水精霊のマナ水…」
「……何処で売ってんだよそんなの…」
「闇市場でそれと似たようなものを見た」
自信無さげにコウは言った。多分本人もその素材が偽物の可能性が高いと理解しているのだろう。
しかし、妹の命が掛かっている状況下ではそんな事を言ってる暇も無い。
「…もしかして、ブロウとジルもその薬が欲しくてコウと一緒に?」
「いや、わっし達は大将の手伝いのためです」
「実はおいら達、元々は孤児なんっすよ。困った時は四人で助け合って…だから、ユウは絶対助けたいんす」
「お前ら…」
三人の絆に目頭が熱くなった。
「よし、その回復薬作り、俺も手伝おう。素材回収なら任せてくれ。俺はその道専門だからな」
「いや…でも…」
「困った時はお互い様だ。ニムも良いだろ?」
「レイさんがやると言うなら、私はついて行きます」
ニムがいれば戦闘面は心配ないだろう。
剣役、盾役、魔法役、打撃役、サポート役。バランスの良いパーティーじゃないか。
三人の困惑した視線を受けながら、俺はそんな事を考える。
コウとジルとブロウはお互いに目を合わせて何かを決心した後、申し訳なさそうに─
「すまない。申し出はありがたいが、今日会ったばかりの人にそこまでしてもらうのは気が引けてしまう。だから…」
「謙虚過ぎないかお前ら?」
「いや…普通の判断だと思うが…」
「後でお金取ったりとかはしないぞ?」
俺が言うと「そういう事じゃない」と呆れてしまった。
「駄目か?」
「ああ。だが、そう言う申し出をしてくれたのは嬉しかったよ。俺の街じゃ奇病が伝染るかもと誰一人近寄ってさえくれなかったからな」
行くのに五日掛かる街の人達、ドライ過ぎないだろうか。
コウ達はよくそんな場所で生きて行けたものだ。
「辛い環境で育ったんだだなぁ…」
「それはレイもじゃないか?」
「いや、俺なんかとは比べものにならないよ。俺の場合、周りのモンスターは皆優しかったから」
「周りにモンスターがいるだけで地獄そのものだと思うぞ?」
どうやら少し偏見を持たれているようだった。いつかこのイメージを払拭しなければ。
なんて事は一旦置いておき、俺はどうすればコウ達の手伝いが出来るか考える。
「まあなんだ…レイ達がユウについて聞いてくれただけでも嬉しかったよ。その…ありがとな」
「もうずるはするんじゃないわよ?」
「分かってる。これからは普通にクエストをこなして行く事にするよ」
カンナの注意に、コウは微笑んで返した。
「ブロウ、ジル。そろそろ行こう。あまり長居してはカンナ達に迷惑が掛かる」
「了解だよ。リーダー」
「カンナさん、治療代と食事代、ここに置いときます」
ジルがカウンタの上に銀貨を二枚程置く。カンナは「私の奢り…」とぼやいていたが、ジルが中々引かなかったので仕方なく受け取っていた。
三人が出発の支度を始める様子を見ながら、俺は今も尚考え続けていた。
「これからはもう少しレベルの高いクエストを受けなきゃだね、リーダー」
「そうだな。それと、取り敢えず帰ったら採取クエストでも出して見るか」
「……クエスト、か…」
クエストを上手く使って、何とか役に立つ事が出来ないだろうか…。
「じゃあ、俺達はそろそろ行きます。お世話になりました」
「ええ。またいつでも来なさいよ」
「ありがとうカンナ。レイも色々とありがとう」
「いや…俺はまだ何も…」
俺が悩んでいると、コウが澄んだ表情でお礼を行ってきた。
もうすぐ三人が出発してしまう。
折角仲間になったのだから、役に立ちたかった。
なんて悲哀に走ってみるが、良い案が浮かぶ事は無い。そして、ついにコウ達はギルドを後にしてしまった。
「…レイ?あんま思い詰めても意味無いわよ?」
「うん、分かってる」
俺の幼なじみが励ましてくれる。こういう時のカンナの言葉は妙に心に染みるから困ってしまう。
「って言いながらも何か出来ないか考えてるでしょ」
「むしろあの話を聞いて放っておけって言うのが無理な話だと思うんだよ。だよなニム?」
「うえ?…私はそう言う事はまだよく分かりませんので…。だからレイさんについて行きます」
ニムは無垢な表情で返して来る。どうかニムには進んで人助けが出来る人になって貰いたい。コウ達三人の役に立てなかった俺が言うのもなんだが─…
「…いっその事、こっそり手伝っちゃおうか…」
「またあんたは変な事を…。もうあの三人も行っちゃったし諦めなさい」
「メーさんの力を使えばまだ間に合う…」
メーさんの逃走力を借りれば、隣街まで半日で行ける。ニムもドラゴンだから身体能力は問題無いはず。
…何だか糸口が見えて来た。
「街についた後、偽名でパーティーメンバーの募集かけて…あの三人が引っかかれば…。いける、いける気がする!ニム!隣街に行くぞ!」
「ふえ?…あっ、待って下さいレイさん!」
ミートソースで汚れた口を拭きながら、ニムは俺の後について来る。
「あっ、レイ!せめて食器片付けるの手伝ってから…」
「悪いカンナ!帰って来てからやる!」
走り出した俺にカンナは静止をかけたが、止まらず走り続けた。
思いだったら吉日。俺は帰って来たらカンナに怒られる覚悟をし、ニムと一緒に隣街を目指して駆けた。
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