第10話 冒険者三人組

 ブロウ、ジル、リーダーにカンナのスキルが知れ渡ってしまった。そう言う訳なので、冒険者三人組は皆今日から共犯者仲間だ。

 だが、一応俺達は今日出会ったばかりの人間。お互いに何も知らないのではこの後の事に支障が出てしまう。つまるところ、


「自己紹介だ」


 お互いを深く知る必要がある。

 ジルとブロウの名は覚えたが、リーダーの名前はまだ知らない。それにこの三人が何処の出身で何をしに来たのかも俺は知りたいのだ。


「じゃあまず俺からだな。俺はレイ、F級冒険者をやっている。この村で育った元野生児だ。それで、こっちが俺の親のメーさん。メタルスライムだ」


 そう言ってメーさんを抱き上げると、皆の視線がメーさんに向いた。俺への注目が一切ないなと思うのは気の所為だろう。


「メタルスライムに育てられた…野生児…?どういう事だ?」

「どうって、そのまんまの意味だが?この町に来るまでメーさんと一緒に暮らしてた」

「…モンスターに襲われたりは?」

「そう言えば無かったな」


 リーダーが首を傾げて尋ねて来た。

 今思うと不思議な事だ。出会うモンスターのほとんどに懐かれていた気がする。相当運が良かったのだろう。


「ま、昔の事だし気にしても仕方ないな。じゃあ次、ニムの番ね」

「わ、私ですか…。えっと、ニムです。レイさんと同じF級冒険者です。F級、です!」


 S+級だった事を隠したいのか、ニムはF級という事を念入りに押していた。

 だが、ここでまたリーダーが口を開く。


「あの強さでF級なのか?俺達より強いのに?」

「ニムはさっきステータスカードを作ったばかりなんだ。察してくれ」

「…そうか」


 リーダーがニムに哀愁を帯びた目を向けた。おそらく俺と同じ野生児か何かだと勘違いしてくれた事だろう。

 ニムへの誤魔化しが完了したところで、俺はカンナを見る。


「…私もするのね。っと、私はカンナよ。ここの店主の娘で、父親と一緒に切り盛りしてる。よろしく」


 カンナは一度礼儀正しくお辞儀をした。その後にブロウが続く、


「じゃあ次はおいらが。おいらはブロウ。魔法使いっす。四属性に魔法適正があるっすよ」

「それは凄いな。そこまでの力があるならもっと上に行けるんじゃないか?」

「うーん…自信は無いっすけど…仮に行けたとしてもおいらは今のパーティーに居たいっす」


 俺が聞いた質問にブロウはそう答える。

 四属性も魔法が使えれば軽くA級に行けるだろう。なのに仲間を選ぶとは…中々に感心が持てる人物である。

 尚更密猟に手を出した理由が気になった。


「うーむ…」


 頭を捻って考えて見るが、これと言った理由が思い浮かばない。

 そんな事を考えてる間に、ジルとリーダーが話し出していた。


「わっしはジルと言います。見ての通りの盾役です」

「俺はコウ。ジルとブロウと一緒に隣街からやって来た。さっきは色々と失礼な事をしてしまいすまなかったな」

「気にしなくて良いよ。それにしても隣街か…」


 隣と言っても馬車で五日は掛かる場所にある所だ。

 わざわざこんな田舎町に武器まで持って何をしに来たのか…とも思ったが思い当たる事が一つ─


「やっぱりあの地下迷宮目当てか?」

「…ああ。突然現れた地下迷宮…周辺の冒険者に調査依頼を出したが、強敵揃い故に報告が来たのは一件のみ。そんな話が流れ、国も対処に追われてる今、俺らでも倒せそうなモンスターや駆除禁止モンスターの素材なんかに狙いをつけたんだ。と言っても…敵が強くて俺らでも相手が出来たのは、あのビッグスパイダーぐらいだけどな」

「で、追い詰めていたら迷宮を突き抜けて俺達の所に来たと」

「…まあ、そうだ」


 迷宮に関しての報告が一件と言う事は、俺の報告は無かった事にでもされたのだろうか。いや、最低ランクからの報告なんて普通誰も信じないか。なんて悲し事だろう。

 ただ、今はそれより迷宮が破音の洞窟と繋がっていた事に驚くべきだろう。何しろ、俺が入った迷宮の入り口は、洞窟から反対方向に一日かけて歩いた場所にあるのだから。

 俺が思っていた以上に迷宮は広いようだ。そんな場所でニムと出会ったとなると、何か運命的なものを感じてしまう。


「?…レイさん、どうしたんですか?」

「…いや、何でもない」


 知らず知らずの内にニムへと視線を送っていたようだ。


「取り敢えず、コウ達の事情を聞かせて欲しい。なんでそこまで高難易度のモンスターに拘る?三人の実力なら十分食べて行けるし、頑張れば家も持てるだろ?」

「…そうじゃないんだ…。ただ、今は金が必要で…」


 切羽詰まった様子でコウは言った。


「法に手を出すのはいけないなんて分かっている…。だけど、今は手段を選んではいられないんだ。早くしないと…」


 拳を握るコウを見て、ブロウとジルも沈んだ表情をしていた。

 それはまるで大切な人を攫われた様な、強大な危機が迫っている人の顔だった。


「…もしかしてコウ達、家族を攫われたり?それで身代金とかを…」

「いや、そういう訳ではない」


 俺の推理は見事に外れた。

 もう一度と考えてみるが、やはり俺には分からない。


「もしかして、病気?」


 そうカンナが尋ねると、コウの肩がピクりと跳ねた。その様子を見てカンナは察し、気まずそうに目を逸らす。

 言い当てられてしまったコウは、もう隠せないと判断したのかポツリと声を零した。


「…俺の妹が…病で死ぬかもしれないんだ。だから、薬を作るために金がいる…」


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