果実の終わり
春豆風
第1話【喰らう者】
ザワザワ、ザワザワ
ごった返す人混みは、たしかにそんな擬音を響かせる。
ガヤガヤ、ガヤガヤと、人々の喧騒は簡素な二文字に変換され、きっとその一つ一つに在る意味や価値をゴミにする。
衆愚、という言葉が頭に浮かんだ。
所詮はひとりぼっちの情けない嫉妬だ。
クリスマスを前に騒めき立つ街に、その雰囲気に、どうにも馴染めない捻くれ者が、毒を吐いて自分を慰めているだけだ。
笑顔の他人を愚かとせせら笑う自分、どちらが愚かしいかなんて分かりきっている。
それでも口から溢れる悪意はあるだろう。
「…馬鹿みてぇ」
舌打ち一つ、乾いた音が冬空の下に響く。
大通りの灯りから離れた薄暗い路地で、混ざれないその明るい景色を羨むように悪態を零した。
頬を拭うと、袖口に赤い染みが付く。
体の節々にある痛みを極力意識しないようにしながら、少し無理をして歩き始めた。
フラフラと、孤独に端を歩く姿は情けないほど小さく見える事だろう。
けれど、そんな陰のような奴を態々見る人はいない。
目深に被ったフードが、余計な光を遮ってくれる。それは小さなことだが、こと自分のような人間にとっては何より必要な事でもある。
「────あ、」
ふと、前方から間抜けた声が聞こえた。
何となく聞き覚えのある声だったから、ついそちらを見てしまった。
「あー……く、らぁ…ああ、倉山」
染めた茶髪が明るいクラスメイトの名前を何とか思い出し、陰った作り笑いを浮かべるそいつにどうしたのかと問いかける。
「ああ、いや…クラスのみんなでカラオケなんだけど……」
なるほど、左手に見えるカラオケ店を覗けば、中には20人近い学生の姿が在る。
そういえば今日は平日だったか……
「ぇ…っと、く、来る?」
随分と歯切れが悪い。クラスの大多数とぼっちの会話なんだから、普通はお互いの態度が逆なんじゃないか?
どう返事をしたものか、体面を見繕う様をあからさまに倒け落としてみたい気持ちもあるが、クラスメイトを背に態々誘いをかける気遣いを無視するほど外道でもない。
返答はNoと決まっているが、手酷く返すか丁重に返すか………などと、一丁前に悩んだところでこちらも体面を気にする小市民に変わりなく、二言三言無難な言葉を返して帰路を急ぐ。
既に嫌われているというのに今更選ぶ言葉もないだろうに………………
果実の終わり 春豆風 @HALtouhu
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