第12話 管轄

 殺人事件が起こった。通常ならば事件の起こった区域の公的機関が担当するのだが、今回は違った。他殺の痕が見られる刺殺体は、三つの区内A区、B区、C区を分割する区分線の、ちょうど真ん中で倒れていたのだ。

 結果として、三区が捜査権利を巡って争い始めた。

「被害者の頭はA区に入っている、この件は私たちが受け持つ」A区の警官が言う。

「刺殺痕が多い足はこちらにある。解剖含めこちらが妥当だ」B区の警官が話す。

「でも、決め手となった胴体の出血部はこちらですので」C区の若手警官が呟く。

 その後も延々と手柄を争っていたが、ふとC区の警官が穏やかな語調で言った。

「では、区域内に入った死体を各自分担して持ち帰るのはどうでしょう」提案に二人も首肯し、A区は頭B区は足、C区の警官は慣れた手つきで解体した胴を回収した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る