第21話 鉋

 和食料理店で、アーティストだという方と話す機会があった。何でも彼、かつては大工をしていたらしいが、とあるミスが原因で辞めざるを得なくなったらしい。

「今にして思えば笑い話ですけど、当時は終わったかと思いました」彼は語る。

 彼は数年前に、地方の工務店に勤めていた。特筆すべき資格を持たない彼は一からノウハウを学ばされ、その期間は五年にも及んだという。

 ある日棟梁から木材の仕上げをやってみるかと、台鉋だいがんなを渡された。初めての鉋ということもあってか、彼は多くの木材に傷を付け駄目にした。最初は優しかった棟梁も流石に腹を立てて、彼を叱り飛ばした。棟梁は彼から鉋をひったくると、一言

「あっ、これ裏金(鉋に使われる刃のこと)ちゃんと合ってねぇな……」

 親方は悪くないけど、居づらくなって。彼は酒枡を手ですさびつつぽつりと呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る