第18話 潮

 潮が満ちていく。もうじき満潮を迎えようとしている海の上には白磁の月が上り、月光は海へ滴り光の道のように伸びていた。

「わたし、もう行くね」

 砂浜にポツンと佇む少女は、微笑みを湛えて言った。

「うん」

 少女の言葉に青年は俯きながら、苦しそうに答えた。後ろでに隠した指輪を渡す勇気は、今の青年にはなかった。

 月光の路がか細くなってゆく。少女は一歩一歩足跡を砂浜に刻み込むように、ゆっくりと、しかし確かな足取りで海へと体を沈めていった。つま先がすねが膝が太ももが腰が胸が首が。そして少女の頭が海中へ消えた時、海は満ち足りてしまった。

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