第20話 嵐雲
夕凪が水気を含んでいたのは、どうやら嵐の予兆だったらしい。
景色の彼方から山のように盛り上がった藤色の叢雲は、みるみるうちに茜の空を上塗りしてゆく。やがて上空が紺碧に塗りつぶされ、一つ、また一つと雫が落ちてくる。水滴は秒間ごとの数を増し続け、瞬きする間もなくそれらは雨と変わった。
潮騒の如く鳴り響く雨音は秒ごとに強さを増し、大地を水で満たしてゆく。丘陵に降り注いだ雨は広がりを作り、流れとなって下方へと運ばれる。生命は濡れそぼつ体を震わせながら、一目散に住みかへと帰ってゆく。地上を踏む足音は水音に変わり、生命の働きに軽やかな環境音を加える。そうして大地へ満たされはじめた雨たちは、大地に隈なく染みわたり濁ってゆく。獣道が翡翠の水底となった頃、嵐雲は空からその姿を去った。雲の去ったあとには、深い漆黒の帳が降りていた。
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