第30話 罪と罰
昔、不思議な青年に出会った。旅人らしからぬ軽装だった彼は、閑古鳥が鳴くほど枯れていた私の店をたった一晩で繁盛させたのだ。私が彼にお礼を言うと、青年は手帳を取り出し、入念に何かを記して始めた。
「何を書いているんですか?」私が何気なく聞くと、青年は笑顔で答えた。
「僕は、祖国で殺人を犯しました。金銭問題の縺れから咄嗟に。もう終わりだと思って自首をしたのですが、その時に担当していた刑事さんがこう言ったんです。
『君は、ドストエフスキーの『罪と罰』を読んだことがあるか? あの作品には、一の罪悪は百の善行に償われる、とある。君も若いから、しっかり償うんだ』と」
青年はそう言うと足早に私の店を去りました。彼は罪を償うために各地で善行をしているらしいのです。でも、そう生き続けることこそが罰だと私は思いました。
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