第29話 脱

 「改革に尊い犠牲は付きものだ」

 そう語るのは、年代物の椅子に凭れかかり葉巻を吹かす、初老の男だった。

「この国は古来より、自然を神同然に慈しみ、環境との共生を目指してきた。だが、その思想こそが国力が減衰してゆく原因だったのだ。自然を宝のように大事に扱っていたからこそ、文化の発展は阻まれ、人類の淘汰は免れなくなった。宝は腐らせてはいけない。宝は利用してこそ価値がある。人類は自然という宝を手に入れたその時から、最後の一粒まで搾取すべきだったのだ!」

 男は自分を取り巻く無数のカメラに向けて、威風堂々と宣言した。

「この国の更なる発展のために、世界の自然は限界以上に利用する! 

 脱・自然保護の精神こそ、新たなる世界のカタチだと、ここに断言しよう!」

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