第28話 和室

 子供のころ、実家に一室だけ和室の部屋があったのを覚えている。

 昔は和室の畳をひっぺ返したり、押し入れの中でかくれんぼをして遊んだりと、たった一つだけあった和室が、自分だけの特別な部屋だと信じていた。

 成人して一人暮らしを始めた。安い家賃のアパートで暮らしていたが、そこにたった一つだけあった居間が和室だった。ささくれ立った畳の井草に足の裏がよく刺さったこともあったが、それでも和室での生活は居心地がよかった。

 

 最近の家には和室が足りない。和室のない家とは、日本の矜持を忘れた哀れな人間の好例だ。現在は不動産会社に勤めている自分は、必ず和室のある物件を紹介する。和室のない家に価値はない。和室は特別な部屋だと、私は信じている。

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