第8話 8月

 どこまでも青い空の彼方より、うずたかく積みあがった入道雲を見る。世界というもののスケールにため息をしつつ、男は開けた縁台でスイカを食していた。

「……あっつー」

 ラッパのようにとがらせた口から、スイカの種をプッと吐き出す。ヒマワリの咲く庭に打ち出された種には、早速アリたちが群がりはじめた。

「風吹かねぇ……」

 鴨居に打ち付けられた風鈴は、現時点では宝の持ち腐れである。

 スイカを持つ手が汗と果汁で濡れる。遠くでセミがせわしく鳴いている。入道雲は微動だにしていない。風が一向に吹かないのだ。男がぼそっと愚痴を吐く。

「七月の暑さじゃないな、こりゃ……」

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