第9話 ブーツ

 その革のブーツは、履いた者を不幸にする。

 紳士が履けば、突然の解雇処分を言い渡され、務め先を失った。

 少女が履けば、強姦魔に犯され、その純心を失った。

 官僚が履けば、身に覚えのない罪で遠方へと左遷され、地位を失った。

 ある時、見るも醜い浮浪者がそのブーツを履こうとした。

 浮浪者には失うものが何も無いので、ブーツは彼の物になるかと思われたが、浮浪者がそのブーツを履いた途端もがき苦しみ始め、間もなく命を失った。

 結局、その呪いのブーツは誰の物にもなることなく、現在はここに飾ってある。

「だけどね、このブーツの本当の力は『履いた者から何かを失わせること』じゃない。『履いた者が失いたい何かを失くすこと』だったのさ」

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