第17話 明日は我が身

 旅人はとある町に訪れた。そこは麦や稲穂がそこかしこで豊かに実っており、農業が盛んだった。その町の夜。民家に泊まっていた旅人は、そこの家主に呼び出され、家主の田圃たんぼへ行くことになった。敷地いっぱいにこうべの垂れた稲がみのっている。

「ここら一帯は昔、蝗害こうがいに悩まされていたんですが、近年月の光で成長する品種が開発されたんです。それを育てて以降、蝗害に悩まされなくなったんですよ」

 家主が誇らしげに話す。夜空に浮かぶ満月が、田園風景を優しく照らしだしている。旅人はその光景を、憂うように眺めていた。

 旅人は先刻、別の国へ寄っていた。そこは、夜になると狂暴化するいなごによって、作物を全滅させられた国だった。黄色く光る蝗の群れを旅人は鮮明に覚えていた。

 旅人はその蝗のことを言うべきか迷ったのだが、結局言わないことにした。

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