第29話 夏衣

 ある城下町に息子と二人で慎ましく暮らす女がいた。その女は夫に先立たれていたが、貧乏を除けばなに不自由なく過ごしていた。

 ある日、城の貴族が城下町を遊山に来ていた。そのとき貴族は、その女を見て一目惚れしてしまった。その後、貴族は夜になるたびに女に会いにきた。

 そんなある夏至の日。貴族の通いがばれてしまった。不貞を働いた女は、せめて貴族は逃がそうと、藍色の麻の直垂ひたたれを被せ、夜中に逃げ出させた。

 以下は逃げる道中、貴族がはるか遠くの女を想って詠んだ歌である。

 

   夏衣 ひとへにあいの つみかさね

       麻のひたたれ 着らるる身かな

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