第8話 李も桃も

 人生で尊敬できる人が三人いる。一人は高校受験生時代、当時名門大学に通っていた家庭教師のS先生。もう一人は大学時代、休みがちな私のために講義の要点や配布資料をまとめてくれて、卒業後は大手銀行職員に就職したM先輩。そして三人目は、その二人が通っていたT塾という塾で人気だという、塾講師である。

 機会があり、私が初めてその講師に出会った感想は、至って平凡な見た目だった。五十代然とした風貌。私が拍子抜けしていると、彼は柔らかく目元を緩ませ、

「初めまして、横山です。ごめんね、普通のおじさんで」と申し訳なさげに言う。

 その後、私と横山さんは親しく対談を楽しんだ。帰り際、彼は私の目を見て、

「ありがとう。君のおかげでまた一つ、新しい見識が増えたよ」と嬉しそうに私に言った。S先生やM先輩が横山さんを慕う理由が、分かった気がした。

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