エピローグ

――ポメラニア帝国歴261年7月23日 火の国:イズモ:シュレイン邸――


「うひいいい。こっちの世界も、ひのもとの国と同じくらいに暑くて、たまんねえや!」


 シャクマ=ノブモリが燦々と照り付ける太陽に毒づく。シャクマは、あのゼーガン砦の攻防戦の後、アキヅキ=シュレイン共々、お役御免となり、シュレイン邸でのんびりと過ごす毎日を送っていたのである。


 まあ、本当にのんびり出来たかは諸説あるのだが……。


 アキヅキ=シュレインは、ゼーガン砦の遺体安置所に置かれていた父:カゲツ=シュレインの遺体を引き取った後、地元に戻り、葬儀を行うこととなる。サラーヌ=ワテリオンが気を利かせて、遺体安置所を防腐処理用の液体で満たしてくれていたおかげで、見るも無残な姿になっていなかったのは不幸中のさいわいであった。


 あの壮絶な戦いから2年余りが過ぎていた。父:カゲツ=シュレインの三回忌も無事に過ぎて、どこか安堵の表情を浮かべるアキヅキであった。


 この太陽が照り付ける中、シュレイン邸の広い庭で木刀を使って素振りをするシャクマを見ながら、日傘と白いテーブル、それと白い椅子が置かれているテラスでアキヅキは幸せそうに笑う。


「あっ。シャクマ! 今、赤ちゃんがわたしのお腹を蹴ったわよ!」


「えっ! アキヅキ、本当か!? ちょっと、俺も赤ちゃんが腹を蹴ってる音ってのを聞かせてくれよっ!」


 2階のテラスからシャクマに手を振るアキヅキのお腹はぽっこりと膨らんでいた。アキヅキが妊娠してから、早8カ月目を迎えていた。予定通りならあと2カ月もしない内に待望の第1児を出産することになる。


「良いニャー。アキヅキちゃんは……。フランちゃんも早くシャクマとの子供が欲しいニャ」


「そんなこと言っても、他種族同士だと子供は出来にくいのよ? わたしのはたまたま、たまたまよ?」


「そんなこと言って、アキヅキちゃんはシャクマ独り占め月間とか言い出して、シャクマと1カ月もの間、寝室から出てこなかったニャーーー!!」


 シャクマを諦めきれないフランに、アキヅキが提案したのは、半年に一度の頻度で1カ月間、シャクマをアキヅキが占有できる権利を認めるならば、第二夫人として、シャクマと同じ家に住んでいいわよ? とのことであった。


 フランは不承ぶしょうであるが、それを了承したのは良いのだが、アキヅキはシャクマとの結婚式を終えた直後にその権利を発動して、一カ月間、夫婦の寝室から出てこないという荒業を繰り出したのである。


 それがちょうど9カ月前の出来事であったから、アキヅキは抜けているところはあるが、女性としてのたくましさに溢れているとでも言えよう。結局のところ、シャクマとの間柄において、アキヅキは一歩も二歩もフランに差をつけたといえよう。


「フラン? 恋は戦争なのよ? それを教えてくれたのは、フラン、あなた自身よね?」


 フランはフランで、シャクマの今の身体においての童貞を、アキヅキに黙って奪っていたのである。だからこそ、アキヅキはフランが抜け駆けしないようにとのことで、強硬策に打ってでたわけである。


「ほっほっほ。シャクマさまは男冥利に尽きますな。こんな美しい女性たちをとりこにしていますのじゃ」


 言い争いを続けるアキヅキとフランの間に割って入るかのように、テラスに現れたのはシュレイン家の筆頭執事であるバジル=フォルジュ、通称:バジル爺であった。かれは冷たく冷やした麦茶を入れた鉄製のヤカンと、空の縦長のコップを3つ持ってきたのであった。


 彼は白いテーブルの上に縦長のコップを並べた後、その中に麦茶を注いでいく。そして、3つ目のコップに麦茶を注ぎ終わったと同時に、テラスにシャクマが飛び込んでくるのであった……。

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金髪エルフ騎士(♀)の受難曲(パッション) ももち ちくわ @momochi-chikuwa

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