第9話:終わりの始まり
ショウド国:国主であるネーロ=ハーヴァがゼーガン砦から出立し、そこから北東にあるダンジリ河の渡河地点近くにあるキッシー砦の中に入った時に彼はようやく自分の身に危険が迫っていることに気づく。
ここで一晩を明かした後に、渡河地点よりダンジリ河を渡って、本国に帰還する予定であったのだが、ネーロ=ハーヴァ一行がキッシー砦に入るやいなや、同行していたサラーヌ=ワテリオン隊と、クラーゲン=ポティトゥ隊が砦から外に出て、門の前に土嚢を積み上げて、ネーロ=ハーヴァ隊が外に出れぬように封鎖したのであった。
「謀ったでおじゃるなっ!! 朕をこの砦に閉じ込めて、火炙りにする気なのでおじゃるなっ!?」
慌てふためくネーロ=ハーヴァは、石壁の上へ通じる階段を探す。石壁の上から砦の外へ飛び出そうと考えたのだ。しかし、砦内のどこの階段も、何かの力によってかは知らないが、破壊されつくしていたのである。
壊れた階段の手前で錯乱状態に陥るネーロが、へへへっ、うへへへっと口からヨダレを、鼻の穴から鼻水を垂らす。
「あらあら。これは困ったのでありんす。発狂してもらうのはこれからだというのに、これではつまらんのう?」
妖艶な雰囲気を醸し出す女性が、石壁の上から飛び降りる。そして、まるで羽のように軽やかに、ほとんど音もさせずに着地する。いや、着地するという表現は正しくはない。彼女は数センチメートルばかし、地面から浮いていたからだ。
「な、何奴だっ! このお方がショウド国の国主と知っての狼藉かっ!」
「おや? そこで小便までまき散らしている馬鹿面のことでありんす? こんなゴミ虫をむごたらしく殺しておいてほしいとは、よっぽど陛下はご立腹だったのかえ?」
妖艶な雰囲気を纏う女性はカランコロンと宙でお洒落な下駄を鳴らして、地面にへたり込むネーロに近寄っていく。
ネーロ付きの親衛隊はネーロの身を護るために、腰の左側に佩いた青銅製の
「なん……だと!?」
親衛隊が渾身の力で振り下ろした
「ひ、ひいいいっ!」
その不可思議な現象を見た親衛隊のひとりが、柄から右手を離して逃げ出そうとする。だが、その男の握っていた
「オーホホッ! 汚い花火でありんす。さて……。他の者たちはどのように殺してほしいのかえ?」
一部始終を見ていた親衛隊のほどんどが腰をぬかすことになる。そして、四つん這いになりながら、その場から蜘蛛の子を散らすように逃げ出したのであった。
「おやおや? こんな素敵な
大妖狐・タマモと名乗った女性の着物の尻の部分が膨れ上がる。そして、着物の裾を割いて、9本の太いキツネの尻尾が現出したのであった。
彼女が右手を上から下に振り下ろせば、そこには頭の先から股までを真っ二つにされた死体が出来上がった。
彼女が左手を無造作に前へ突き出すと、どてっぱらに大穴が開き、向こう側がありありと見える死体が出来上がった。
彼女がふわあああとあくびをし、はしたないとばかりに右手で口元を隠し、チュッと投げキッスをすると、その投げキッスを受け取った者たちは、両腕で抱えるほどの大きさの石を持ち上げて、互いの頭を砕き合う。
この世に地獄が舞い降りた。それが正しい表現であっただろう、キッシー砦で起きた惨状は。
かくして、大妖狐・タマモと名乗る者がショウド国:国主であるネーロ=ハーヴァの命を奪うことになる。しかもネーロが肌身離さず持っていた、ポメラニア帝国と調印した書類までもをご丁寧にも灰にしてしまったのであった。
国主であるネーロが不慮の事故(?)に巻き込まれたことにより、ショウド国全体で政変が起きることになる。本国に帰還したサラーヌ=ワテリオン、クラーゲン=ポティトゥ両将軍は、宮中でのネーロ派の一掃にかかる。そして、暫定として、サラーヌ自身が国主の玉座に収まるのであった。
そんなサラーヌ=ワテリオンが次に起こした行動は、ショウド国全体を揺るがせることになる。なんと、独立を勝ち取ったばかりだと言うのに、サラーヌはポメラニア帝国の宮廷に参内し、メアリー帝に臣下の礼を
サラーヌの言では、あの一連の騒動は全て、前国主であるネーロ=ハーヴァが仕組んだことであると。元々、ショウド国の国民は、ショウド国が危機に陥った際には、数多くの支援を受けたおかげで、今日まで滅亡せずに済んだことに感謝しているのだと。
「フフフッ。なかなかに知恵が回りますワネ? では、ショウド国をこれからも、ポメラニア帝国の庇護下に置くで宜しいのカシラ?」
「ははーーーっ! ショウド国はポメラニア帝国あってこそ、この世に存在できるのダワス! 有事の際には、なにとぞ、助けてほしいのダワス!」
ショウド国の現国主であるサラーヌが額を大理石の床にこすりつけるように平身低頭で、先の
そんなショウド国:新国主に対して、メアリー帝は右足に履いている銀色の靴を脱ぎ、さらには膝まである絹製のソックスを脱ぎ、素足を露わにする。そして、玉座に座ったまま、彼女はその右足をサラーヌの方へと突き出すのであった。
サラーヌはメアリー帝が言わんとしていることを即座に理解し、脂汗を全身から垂れ流しながら、自分が取るべき行動に移るのであった……。
かくして、本当の意味での和睦がポメラニア帝国の宮中で行われることになったのだが、ショウド国の怒れる国民は、新国主がどれほどの恥をかかされたことなど知る由もなかったのであった。
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