第3話:鬼神が如く

 アキヅキ=シュレインはただただ、しっかりと両手で握る両刃が蒼い水晶クリスタル製の大剣クレイモア半虎半人ハーフ・ダ・タイガを屠ることに集中していた。


 次々と石壁を乗り越えてくる半虎半人ハーフ・ダ・タイガ紅玉ルビー色の全身鎧を着こんだアキヅキ=シュレインに襲い掛かる。この女さえ殺してしまえば、ゼーガン砦の東側からの侵入は大成功だと思えたからだ。


 石壁を乗り越えた半虎半人ハーフ・ダ・タイガたちは、手甲ナックル・カバーの中に鈎爪カギヅメをしまい、腰の左側に佩いていた鞘から右手で青銅製の長剣ロング・ソードを抜き出す。


 そして、眼の前の金髪エルフの女騎士を包み込むように襲い掛かる。


 だが、アキヅキは包囲されることを念頭に置いて、身体を動かしていた。大剣クレイモアの切っ先を石床に突き立てて、それを支えとして、大剣クレイモアの柄を握り込んだまま身体を足の方から跳ね上げる。そして、アキヅキの身体は宙にふわりと浮き上がり、続けて大剣クレイモアもズボッと言う音と共に抜けて、アキヅキに追従する。


 アキヅキは宙返りをしながら一足飛びで、自分を包囲しようとした半虎半人ハーフ・ダ・タイガの背面に回ることに成功したのであった。それに面喰らったのは半虎半人ハーフ・ダ・タイガたちだ。


 全身鎧を着込み、しかもあんな1.8メートルはあろうかという長大な大剣クレイモアを両手で握りながら、そんな軽やかな動きなど出来るはずがないと思っていたからだ。


 背後を取られた半虎半人ハーフ・ダ・タイガたちは急いでエルフの女騎士の方を向こうとした。だが、時すでに遅し。彼らは背中側から彼女の大剣クレイモアの薙ぎ払いを喰らうことになる。


 またもや、宙に半虎半人ハーフ・ダ・タイガたちの上半身が舞うことになる。半虎半人ハーフ・ダ・タイガたちは一様にその顔に恐怖の色を宿す。そして、生き残っていた半虎半人ハーフ・ダ・タイガたちは一歩、後ずさりする。


 しかし、それがいけなかった。退くのを見るや否や、アキヅキは大剣クレイモアを上段構えにして、怖気づいた半虎半人ハーフ・ダ・タイガの頭頂部に水晶クリスタルの刃を真っ直ぐと振り下ろす。


 頭頂部から蒼く光る大剣クレイモアを喰らった半虎半人ハーフ・ダ・タイガは縦から半分に引き裂かれることとなる。石壁の上に登り切っていた半虎半人ハーフ・ダ・タイガたちに恐怖が伝搬していく。


 彼らは一目散にやぐらがある方へと逃げ出す。


「逃がすものかっ!」


 アキヅキは紅玉ルビー色の全身鎧をガチャッガチャッという金属音を鳴らして、彼らを背中側から追う。そして、袈裟斬り、逆袈裟斬り、唐竹割り、横薙ぎと思う存分に大剣クレイモアを振り回す。


 そして最後に残った半虎半人ハーフ・ダ・タイガは背中をやぐらに押し付けながら、両手を合わせて、命ばかりは助けてほしいと懇願するのであった。


 しかし、アキヅキは勢いそのままに、大剣クレイモアの切っ先をまっすぐ彼の顔に向けながら突っ込んでおり、彼の懇願が届く前に、彼の顔面のど真ん中に大剣クレイモアが届く結果となったのであった。


 アキヅキが両手で握る大剣クレイモアの刃は半虎半人ハーフ・ダ・タイガの顔面を貫通し、木製のやぐらの壁にめり込んでしまう。アキヅキは大剣クレイモアの柄を強く握りしめ、左足の底を物言わぬ屍と化した半虎半人ハーフ・ダ・タイガの腹にめり込ませる。


 そして、ふんっ! とまるで女性らしからぬ鼻息の荒さをもってして、無理やり大剣クレイモアを引き抜いたのであった。


 その後、彼女は東側の石壁の上に転がる半虎半人ハーフ・ダ・タイガたちの屍を砦外に放り投げるようにニコラスに指示を出す。ニコラスたちはただ黙って、コクコクと頷き、石壁の上から次々と引き裂かれた半虎半人ハーフ・ダ・タイガたちの屍を放り投げるのであった。


 石壁の上の屍を片付け終わった後、アキヅキは石壁の東側の真ん中で仁王立ちしだす。そして、右手で大剣クレイモアを振り上げて、大きな声で宣言をする。


「わたしはアキヅキ=シュレイン! ポメラニア帝国の守護者にして、勝利の女神よっ! わたしが健在である内は、決してこのゼーガン砦を抜けるとは思わないことねっ!!」


 アキヅキがそう宣言すると同時に、合わせるかのようにニコラス隊の面々が手に持つ長剣ロング・ソード戦斧バトル・アクス戦槌バトル・ハンマを彼らの頭上で上下させ、さらにはウオオオ! と雄叫びを上げ、さらにアキヅキを褒めたたえながら、敵を圧倒するような台詞を吐く。


「我らが女神はこのいくさに勝利をもたらす! 命が惜しければ引けっ!!」


 その宣言を間近で聞いていた半虎半人ハーフ・ダ・タイガたちは恐怖を刻まれ、一目散に張り付いていた石壁から飛び降りて、サラーヌ=ワテリオンが指揮している陣地へと逃げていくのであった。


「はははっ。隊長、いえ、司令官代理殿。いくらシャクマ殿の進言があったからと言って、やりすぎじゃないですかね?」


 退いていく半虎半人ハーフ・ダ・タイガの一軍を見ながら、ニコラスは嬉しそうに笑っていた。そして、全身を返り血で染めたアキヅキに対して、見事ですよと伝えるのであった。


「ううう。今更ながらに身体が震えてきたわ……。もし、石壁を登りきられたら、敵を全滅させて、さらには声高らかに宣言しろとまでシャクマに言われてたし……」


「でも、司令官代理殿。格好良かったですぜ? まるで物語に登場する英雄のようでしたぜ!」


 アキヅキを手放しに褒めたたえてくるニコラスである。悪い気はしないのだが、アキヅキとしては必死も必死であった。これが上手く行くかどうかで、この攻防戦の行方がが左右されるぞ? さあ、頑張れとシャクマに尻を叩かれたのだ、彼女は。


 本丸の前でシャクマに尻を叩かれて送り出されたアキヅキは石壁の上に続く階段を駆け上った。そこでニコラスたちがあわやというところまで追い詰められたのを見て、彼女の中の何かが弾けたのである。


 そこからは鬼神が如くに大剣クレイモアを振り続けたのであった、アキヅキは。

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