第9話:貞操の危機
アキヅキの一言は余計であった。子爵:カゲツ=シュレインは
その汚い油たちが紅い鎧を着こんだエルフの女騎士に背中側から次々と覆いかぶさっていく。反抗されないためにエルフの足や腕に体重を乗せて行くのだ。エルフも普段から身体を鍛えてきたが、片腕や片足に大の男の全体重を背中側乗せられては、はねのけようが無い。
「けっけっけ! 背中と腰の甲冑を剥ぎ取っちまうだ! おいっ、留め金を外すのだぎゃ!」
甲冑の両脇部分には皮ベルトと留め金が付属されていた。その部分をナラズモノたちが黒く汚れた太い指で必死にガチャガチャと鳴らす。1本、また1本と皮ベルトが留め金から外されていく。
アキヅキ=シュレインは声に鳴らぬ声を上げてはいるが、一向にこの路地裏に足を踏み入れるモノなどいなかった。
ついに、アキヅキ=シュレインが着こんでいる甲冑の背中部分と腰部分が剥がされることになる。そこからは鎧下の丈夫な服が覗き見られる形となる。しかしながら、その丈夫な服の上からでも、アキヅキのウエストが締まり、そのウエストが締まっていることで、餅のようにふっくらとして柔らかそうな突き出た尻が強調されていた。
アキヅキを組み伏せるモノたちは、その形の良い尻を見て、ごくりと生唾を飲み込み、脱がせるのも惜しいとばかりにアキヅキの尻の谷間に布越しで顔をうずめ、スンスンッとまるで野良犬のように嗅ぎ続けるのであった。
アキヅキは今にも泣きそうになっていた。しかしここで声を上げて泣き出せば、この暴漢たちはさらに喜びの雄叫びを上げて、アキヅキの身体の隅々を犯そうとしてくるだろう。アキヅキは両手から血が滲まんとばかりに握りしめる。
(お父さまっ! アイス師匠っ! 誰か、誰か、助けてっ!!)
アキヅキは唇を血が滲むほどに噛みしめて、恥辱に耐えようとしていた。尻を布越しに押し広げられ、もみくちゃにされ、それだけでは満足できなくなった男たちの黒く汚れた太い指がズボンを止める紐を強引に外そうとする。それでもだ、アキヅキは恐怖と闘っていた。
その時であった。急にアキヅキへ伸し掛かっていた重みが軽くなったのである。男ひとりの体重分だけでない。時が1秒かそこら経つにつれて、また1人分の体重がアキヅキの上から消えて行く。
それと同時に、ブゲッ! ブギャア! ブベエエエッ! と言った豚のような鳴き声がアキヅキの背中側から聞こえてくるのであった。アキヅキは自分の身が軽くなったのを幸いに、その場から転がるように横へと跳ね上がり、二度と不覚を取らぬようにとテントの布に背中を預ける恰好となる。
アキヅキが状況を確認するために、辺りを見回すと、今まで自分を組み伏せていた暴漢たちは折れた腕や足を無事なほうの手で抑えながらヒイヒイイ! と泣き叫んでいたのであった。
「で、でめえ! 何様だぎゃっ!!」
暴漢のひとりが口からダラダラと血とヨダレを垂れ流しながら、涙目になりながら、自分の口に蹴りを入れた人物を恨めしそうに睨む。その視線の先にはいポメラニア帝国では見かけたこともない何ともいかつい甲冑と呼んでよいシロモノかどうか判別しかねるモノに身を包んだ戦士が立っていたのであった。
「やれやれ……。S.N.O.Jに急げと言われて、こんなところに入り込んじまったわけだが、まさか、お楽しみの最中に出くわすとは思わなかったわ……。俺ってもしかして災難に会う【運命】の元に生まれついたわけか?」
男は甲冑(?)姿のままで、
「危ないっ!」
アキヅキは思わず、そう叫んでしまった。このままでは彼もまた、自分と同じように組み伏せられてしまう。そう思ってしまったのだ。
しかし、それはアキヅキの杞憂であった。見たこともない甲冑姿の男は背中側から腰に体当たりを喰らったというのに微動だにしないのだ。これにはアキヅキも驚いてしまう他無かったのである。
「はははっ。すまんな。背中側から体当たりされるのは、俺の元居た世界じゃ当たり前だったんでな?」
タックルをかました暴漢は眼を白黒させていた。自分の全体重を乗せたはずなのに、まるで樹齢300年のぶっとい幹を持つ樹木にでも自分はぶつかりに行った。それが暴漢が脳内でイメージしたことであった。
「あらよっと!」
甲冑姿の男は暴漢の首根っこを右腕で包み込み、あろうことか、そのまま投げてしまったのである。当然、暴漢の首にはとんでもない力が加わることになり、ゴキンッ! と不快な骨が折れる音が辺りにこだますることになる。
それだけではない。その甲冑姿の男は地面にぶん投げた首の骨が折れている暴漢の顔面めがけて、鉄製の靴底でグキョッ! メキョッ! ガキョンッ! と3度も踏みつけたのである。
「よっし。これで1人死んだな。さて、婦女暴行を働いてた奴は、あと4人か……。知っているか? 婦女暴行ってのは重罪だ。その場で殺されても文句は言えないんだぜ?」
甲冑姿の男は、まるでヒトを殺すことに何の躊躇もないとばかりに歩を進めていく。しかも、他の暴漢たちが簡単に逃げられぬようにとあらかじめ、手足の骨を折って戦闘不能にしていたのだ。アキヅキは思わず両目をギュッと閉じることになる。
だが、それでもアキヅキの耳には、さらに骨が砕ける音、肉が千切れる音が聞こえる。
ようやく、その不快な音が聞こえなくなったあと、アキヅキは恐る恐る、眼を開く。その眼前には物言わぬボロ雑巾のように成り果てた
「あ、あ、あ……」
アキヅキは胃液が胃の中から食道を駆けあがり、口の中いっぱいに広がるのを覚える。そして、うえっげほっげほっとその胃液を草が生い茂る地面へと吐き出してしまうのであった。
「おいおい、大丈夫かよ。あんた、一見、騎士に見えるけど、もしかして、こういうのは初めてだったか?」
「う、うるさいっ! そんなことより、わたしを助けてくれたのよね?」
アキヅキは吐しゃしているところを見られたのを恥ずかしく思いながらも、無理やり気丈に振る舞おうとする。甲冑姿の男はまたしてもやれやれといった仕草をするのであった。
「あ、ありがとう……。やりすぎな気はするけれど、一応、礼は言わせてもらうわ」
「どういたしまして。さってと、それよりも、剥がされた鎧を身に付けな?」
甲冑姿の男の指摘通り、アキヅキは胸から腹、そして下腹部の鎧がどこかへ行ってしまっていた。それらの一部分は自分の足元に転がっているのだが、大半は血と肉の海と化してしまったところに散乱していたのである。
「ちょっと……」
アキヅキが甲冑姿の男に文句を言おうとした瞬間だった。男は左手を突き出し、アキヅキを静止させる。
「んーーー。済まねえ。鎧を着こむのは後だ。風が
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