第3話 理想の彼

 秋山寛もとい、今は結婚して佐藤寛の毎日は忙しい。

 というかキツイ。


 なぜかって?

 それは、結婚してすぐに言われたこと。


 「寛さん。これから寛さんは私と結婚するわけですけど、その、家庭内暴力をカワユイ麻里にしないでね?ってお願いはもちろんなんですけど。素敵な彼でいて欲しいって気持ちも強いのです。えとね。具体的にはその筋トレしませんか?」


 といって彼女は殺人的なトレーニングスケジュールを僕に渡した。

 「腹筋はきっちり割ってください。絶対です。」


 「あー嬉しいな。強くてとても強いのに、彼女である私にはメロメロで逆らえない彼。最高!」


 あの、メロメロって何?メロメロというより戦々恐々として、恐妻に逆らえない彼の間違いでは……。


 「あ、それと知性も磨いておいてね!具体的には任せるけど……。」


 麻里は一呼吸おくと断言した。


 「私はあまり気は長くないよ?」

 と言った。


 怖い。


 こうして僕は仕事の合間は彼女に愛されるため、すべての力を自己研鑽に注ぐ意識高い系男子になったのである。逆らったら、離婚され、女性化まで一直線とあっては止むおえない。


 そして、今日は英会話の授業である。国際的なところを見せれば、少しは夫としての株も上がるのではないか?という安直な発想。


 なに、そんなにうまくならなくても、雰囲気話せれば、認めてもらえるんじゃね?

という甘い期待。


 どういうわけか英語の講師はエキゾチックな女性が多い。そして僕の担当はスタイルが良くて長身のアメリカ人の姉ちゃんだった。彼女のニックネームはステイシーという。


 「こんちわ、寛。なぜ、あなた英語習おう思ったの?」

ステイシーがたどたどしい日本語で僕に尋ねる。


 「彼女が知性を磨けっていうもので……。2ヶ国語を話すことはそのファーストステップかと。」

 まさか脅かされているとは言えないしなぁ。


 「ウワァッと?知性って?寛はもともと賢いね!ははん?寛、にくいね。言い訳しなくていいよ?外国人の奥さんが本当は欲しいね??日本今、一夫多妻制ね。第2夫人は外国人が欲しいか?どうよ?私?」


 おい。なんかノリがおかしいぞ?このステイシーって女。


 「いや、無理なんだ。僕は国策で強制結婚させられて、第2夫人を取ることを妻に禁止されているという弱い立場なんだ。その国策結婚?ってわかるかな?離婚したら僕女の子にさせられてしまうんだ。ははは、嘘みたいな本当の話だよ。」

 

 僕は予防線を張る。少しでも麻里に浮気を疑われたら、どうなることか。



 「私ホンキよ。寛。私と付き合いなさい。ジャパニーズに拒否権はないんだから!」

 どういうことや。拒否権ないって?


 「あなたのこと調べさせてモラッタよ。わたし嘘ついて奥さんのところに押しかけてもイイね。そしたら寛、ユーはガールにされるよ。ユーハドベターチートオンユアワイフね。私と浮気しないとどうなってもシラナイよ……。」


 つまりこう言うことだ。ステイシーを拒絶するとステイシーは麻里に浮気したとチクる、すなわち、僕女性化。ステイシーを受け入れると、あの勘のいい麻里に気づかれて、やはり、僕女性化。


 なーんだ、僕の男としての人生詰んじゃったじゃん。ははははは。短い人生だったな。命短し恋せよ青年だったね。こりゃ。しかし女性化を少しでも遅らせるためには、そして、浮気して僕の気持ちを少しでも和らがせるためには、男として、ステイシーの申し出を断るわけがないよね?女性化させられるまえに、短い青春を楽しもう。


 「ステイシー。僕は君を愛するよ。アイラビューフォーエバー」


 と僕は告白した。


 しかし、その時ウェブカメラ越しにそれを当然のように監視していた人物がいた。


「ふーん、寛さんはビーエルじゃなくて、百合百合したいんだ。すぐ女の子にしてあげるから、永遠にステイシーさんと結ばれればいいわね。」

 

 麻里は独り言でいう。そして、携帯を片手に寛にメッセージを送ることにした。


 「早くウチに帰ってきてね。直接、私寛さんに謝りたいの。」と。


 ごめんね。君を女の子にしちゃうことに私今決めちゃった!


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