第2話 BL


 「寛さんは女性になるのそんなに嫌ですか?」


 正直にいうと絶対に嫌だった。だがこの場合、この質問に馬鹿正直に答えるのはあまりに策がなさすぎる、というもんである。考えて欲しい敵さんは間違いなく僕のこの、女の子になりたくない、という弱みを使って、僕をあれやこれやで手篭めにしようとしている、恐るべき妻なのである。恐妻をかかえた夫がとるべき言動としては、もちろんだがココは強がってみよう。


 「いや、まぁ、なるようになるんじゃない。女の子になっても。」


 うん、大丈夫大丈夫。きっとなんとかなる。と自分に言い聞かせる。暗示は大事だよね。怖がっちゃーだめだ。

 麻里は僕に意外なアプローチをしてきた。


 「ひょっとして、寛さんって、そっち方面にも若干気があるんですか?」

 とナナメ上目遣いで僕を見つめながら言ってくる。


 「意外です!ビーエルですね。ビーエル。」

 は?ビーエルって??なんか麻里が喜んでいる?


 「な、なに?いきなり?」


 僕は意外なフレーズがでてきたので戸惑いを隠せない。僕の目論見では彼女は弱みが握れないことに気づいてがっかりするとおもったのだ。しかし麻里はなんか喜んでいるようにしか見えないのだ。なんで?なんでこうなるの。


 「あ、ビーエルがわからないんですね。待っててください今実地で教えてあげますから。」

 といって彼女は本を見せてくれた。

 そこには男と男のアヤシイ絵が描かれている表紙に


 「恋する諸葛亮公明は今日も素直じゃない。」


 と書いてある。

 「三国志モノです。私歴女なんで!」


 「はぁ?」


「私が諸葛亮公明役やりますね。寛さんは公明の策で愚かにも捕虜になった武将の寛です。」


 おい。待てや。


 「寛って日本人の名前やろ!しかも愚かって!」


 思わずツッコミを入れる僕。

 麻里は嬉しそうに続ける。


 「これの52ページからの絡みがスゴイんですよね。読んでいただけますか?」

 とページを広げるとトンデモナイ挿絵が僕の目に入る。


 「嫌だ、絶対に読まない!!」


 つい本音がでる僕。


 「女の子になってもいいんじゃなかったの寛さん?こういうのも今から慣れておかないと?ねー?」


 麻里は嫌がっている僕についには朗読して本の内容を伝えようとする。まぁまぁ、聞いてくださいよ旦那。とか言いつつ。それは以下のようなシーンであった。

 



 「我が主人玄徳様は、お主のような愚かな武将は切って捨てるべしと言っておられる。何か申し残すことはないか?」


 公明は冷たく言い放つ。


 「この寛、敗軍の将として死ぬ覚悟など、とうにできておるわ!切れ!公明!」


 公明の心になぜか動揺が走る。そして公明は気づいてしまった。この愚かな寛という男の美しさに気づいてしまったのだ。


 「切れぬ!と申したらどうする。お前をたっぷり可愛がってやろう。」

 公明は部下に命じて寛をがんじがらめに縛った上で、人払いをする。


 「機密情報をもらせば、助けてやらんでもないぞ?」

 拷問道具を手に優しい言葉で寛に迫る公明。


 「黙れ、誰がお前なんかに我が軍の情報を漏らすものか?どんな拷問しても無駄だ。切れ!」


 寛は愚かではあったが、勇敢な武将であった。だから公明のどのような拷問にも耐える自信が確かに彼にはあった。しかし、公明の拷問は寛が想像してたものの斜め上を行くものであった。


 公明は優しく寛を撫でてこう言った。


 「そなたは美しすぎる男だ。」


 そして、公明は執拗に寛を愛撫した。以下僕の脳がすべて内容を拒絶したので、割愛させて頂く。



 麻里の朗読はまともな神経のした男なら聞くに耐えないほど過激になっていく。僕は一生懸命無視を決め込んだ。


 麻里は朗読を続けた。


 「寛よ、この公明のXXXをXXXするなら、許してやろう。どれ、わしが寛に実際にやって見せて見本をみせてやろう!」


 彼女は僕にそう言いながら戯れあってくる。僕が一生懸命耳を手で塞いでいると、わざとらしく息を吹きかけてきたり。


 「寛よ。お主は本当に愛い男よのう。わしはもうソナタが嫌がっているのはわかっても、この気持ちを止めることなどできん。」

 ところどころ、朗読の合間にふふふと笑いを交えながら彼女は僕に迫ってきた。


 「お願いだから、もうその朗読はやめてくれ!頼む!」

 となりふり構わず懇願する僕に彼女は、


 「なーんだ。やっぱり普通の男の子なんだ寛は?女の子にしてあげようかな?って思っちゃったよ。ふふ、ふふふ、嫌だったでしょ?かわいいなぁ、強がちゃって。イイこと?私の言うことを素直に聞いて、理想の男の子になってくれるなら、もう意地悪しないから!ごめんね?ヒロくん。」


 彼女は自分より背が高い僕の肩を優しく撫でるのであった。

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