第11話

ショッピングモールに到着した。


「……帰ろうぜ」


「まだ中にも入ってないよ。それに服買わないと怒られるんじゃないの?」


「そうだけどさ……俺にここは、陽の気が強過ぎるみたいだ」


「そーくん、相変わらず微妙な中二病拗らせてるね……それはそうとして、イヴはどしたの」


俺の隣では、イヴがほけーっとした顔でモールを見上げていた。というか、いつの間にやら呼び捨てなのね。


「人がいっぱい……ここは、お城か何か?」


「ここはショッピングモール。お店とか色んなものが集まってるとこだよ。イヴの服、私も選んであげるからねー」


イヴが理解出来ていないようだ。涼、お前頭いいんだから、もっと教えるの上手くなれよ。お前教えるの下手だから、こちとらテストの時に教えてもらおうに教えてもらえなくて、困ってんだからな。


「……まあ、難しく考えるな。ある種の娯楽施設とでも思っててくれ」


「分かりました」


どんなのが似合うかなー、などと言いながら入っていく涼の後をイヴが追う。


「……そういえば、イヴが来た日に赤イヴに色んなゲームさせてみてくれって言われてたな。ちょうどいいし、今日やるか」


ついでにイヴに関する情報収集をすることを決意し、俺も後を追った。



現在、俺は一人である。決して、人混みの中で二人と逸れた、などということはない。実際のところ、今あの二人は下着を見ているのだ。


「イヴに似合いそうな服ねぇ……」


プレ◯テのソード◯ートとか、そういう系のゲームをしたことがある人なら分かるかもしれないが、ポリゴンで作られた人物というのは顔が整っていて大抵の装備は似合う。


何度も言うようだが、イヴはポリゴンで作られたかのように顔が整っている。人間の域を超えたと言うよりも、神の域に達したと言った方が伝わりやすいくらいに、顔が整ってる。


この二つを掛け合わせて考えると、イヴは大抵の服装が似合う、ということになる。


「……どんなのがいいのやら」


でも、いくら何でも似合うからって、その似合う中にも上下がある。やはり、せっかくだから、似合うの上を選んでやりたい。


「金髪ロングの碧眼といやぁ……」


思い描くのは、水色のワンピースと白色のエプロンである。そりゃあ金髪碧眼で思い描くとすれば、多くのアニメやラノベに出てくるアリスを思い描いてしまうものだ。


……アリス。そういえば、“デスゲーム”で使ってたアバター、アリスって名前だったな。確か、俺のドストライクですごく可愛くて、金髪ロングで紅眼で……


「……一致した」


赤イヴと一致した。いや、もしかしたら元々一致はしていたのだろう。最初の既視感も、もしかしたらそういうことかもしれない。


「いや、でも、そうなると……」


余計分からなくなる。イヴはどこから来たか分からないが、副人格である赤イヴはおそらくゲームの中からやって来た、ということになる。


「今度赤イヴが現れた時に、この話をしてみるか……」


その時、右肩をトントンと突かれ、後ろに向こうと顔を右に向ける。そして、むにっと頰を何かに押さえつけられた。


「にひひ、成功」


ニヤッと笑いながら俺の頰に人差し指を突き付けていたのは、おそらくイヴの下着を見終えたのだあろう涼だった。案の定、その後ろには笑うのを我慢しているイヴがいる。


「……お前はいつまでも子供だなぁ」


「ちょ、それどういう意味⁉︎」


「なんでもねえよ。イヴ、服探すか?」


「うん」


「ちょ、無視⁉︎」


「俺の分の金も持ってきたから、せっかくだしゲームしようぜ」


「ゲーム⁉︎ やった」


「そーくんの奢り? やったね」


「いや、涼の分は涼で払えよ」


「けちー」


膨れても何もないぞ。


「それで、下着は買えたのか?」


「……」


「……どした?」


その質問をした瞬間、イヴが固まり震えだした。


「……ブラの付け方教えられるの、怖いです」


「なんかね、変なトラウマ植え付けられたみたい」


「そ、そっか」


男の俺には分からないことだが、水曜以降ずっと敬語を使わなかったイヴが敬語を使うほどだ。余程のことなのだろう。


「じゃあ、近いとこから制覇していく?」


「制覇って言うなよ」


俺たちは近い順に服屋を回ることにした。



イヴに似合う服探すぞーとか盛り上がってすみませんでした。俺、全くファッションセンスありませんでした。というか、女子の買い物ハードすぎる。


涼と買い物をしばらくしていなかったせいで、忘れていた。女子の買い物、えげつねぇ……


アクセサリーや小物店など、服屋以外にも拘らず、良さそうなものが目に付けば即行入っていくのだ。目移りしすぎ。なんでこうも女子って、必要だと思うものだけ買って帰る、ってことが出来ないのかな。謎の生態だ。


現在、俺は荷物持ちと化し、二人の買った小物や服を持って付いていくだけとなっていた。服に関しても、基本的に涼が選び、イヴが気に入ったものを買っていくスタイルが固定された。


既に何着か購入しており、所持金は三万ほどになっていた。ついでに、時間も一時間程が経過していた。


「よーし、次はあの店ね」


「いいのがあるか、楽しみ」


「ちょ、待って、休憩させて……」


「えー、そーくんもうギブ? まだそんなに回ってないじゃん」


「もう一時間ぶっ通しなんですけど。というか、とっとと服買ってゲーセン行こうぜ。アクセとかは女子だけで来た時に見てくれよ」


「来る機会ないもん。それに、イヴと一緒に来るのなんて初めてだし、盛り上がっちゃってるもん」


イヴも否定する様子はなく、俺ではどうも出来ないことが分かった。


「そうだ、せっかくだしそーくんの服も選んでみよっか。それだったらそーくんも楽しめるよ?」


「着せ替え遊びには付き合わないからな」


「まーまーそー言わずに、ほら」


その後、俺は色々と服を着せられた。クールなカッコいい系にちょっとダボっとした緩めのスタイル。終いには──


「ちょっと待て、これ女子用のワンピじゃねーか⁉︎ あまり調子にのるなよてめーら‼︎」


まあ、このセリフから察せられると思うが、ピンクの膝丈スカートのワンピースを手渡されたのだ。しかもフリル付きのかなり可愛めなやつ。


いくら俺が母さん似の女子顔とはいえ、これはあんまりだと思う。身長も百六十ちょうどくらいだから、まだお可愛いくらいとはいえ、酷すぎると思う。


「試しに着てみてよ」


「断るっ! もうしまいだしまい。とっととイヴの服買ってゲーセン行くぞ」


二人がちぇ〜と唇を尖らせているが、俺はそれを無視して店をあとにした。ワンピースはもちろん涼が元に戻した。

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転生少女と平凡少年の物語 flaiy @flaiy

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