「ウイルスって何ですか?」――ウイルス研究者の異世界冒険記――

烏川 ハル

序章

プロローグ

   

「よくぞ言ったわ! それでこそ、私のラビエスね!」

 嬉しそうに叫びながら。

 女性用スカートタイプの皮鎧で身を固めた少女が、仲間のもとへ駆け寄った。


 彼女から『ラビエス』と呼ばれたのは、薄茶色の皮鎧を着ている男。

 たった今、彼は目の前の敵に対して、おのれの決意を力強く言い渡したばかりだった。

 それは仲間にとって、戦闘開始の宣言とも聞こえる言葉。

 だから……。


「アルデント・イーニェ・フォルティシマム!」

 仲間の一人――黒いとんがり帽子と黒いローブが特徴的な少女――は早速、得意の炎魔法を放っていた。


 その間に、もう一人の仲間――赤い女性用ドレスタイプの武闘服を着た少女――もまた、呪文を唱えようとしていた。四人の中で彼女にしか使えない、特別な魔法を。


 今。

 四人の少年少女が対峙するのは、これまで戦ってきたモンスターとはレベルの違う、恐るべき相手だった。

 全体的には人間ヒトの姿に似たフォルムでありながら、その肌は明らかに人外の色をしており、しかも服と一体化している。体の節々や目鼻口なども妙にのっぺりとした、異形の存在……。


 かつて神が降臨したという伝説も残る、この地において。

 四人の冒険者たちが、強大な敵に立ち向かう。

 どうして、このような事態になったのであろうか。

 特に薄茶色の皮鎧の男なんて、冒険者ではなく、研究者だったはずなのに……。どのような事情を経て、現在の状況に至ったのであろうか。

 彼ら『四人』の冒険物語の始まりは……。


 黒ローブの少女が、村をおとずれた日。つまり、

「こちらに腕のいい白魔法士がいると聞いて、スカウトに参りました! 私と一緒にパーティーを組んでください!」

 彼女が治療院に駆け込んで、男を冒険に誘った日。そこが、スタート地点だったのであろうか。

 あるいは、その前日。つまり、女性用スカートタイプの皮鎧の少女が女子寮の前で、

「あのね、明日……」

 と、男に告げた日。あの日、既に物語の始まる予兆があったのであろうか。

 いずれにせよ。

 その辺りから、彼らが書いた冒険記を紐解いていくとしよう……。

   

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