バーチャル美少女受肉中に異世界転移した上、拾ってくれた勇者パーティから追放された件
犬ガオ
第1話
「おかしい」
私はディスプレイの前で頭を抱えていた。
目の前に映っているのは、ホームページの管理画面。
その管理画面には、私がアップロードした絵素材のダウンロード数が並んでいた。
105、43、22、と底辺イラストレーターらしいダウンロード数が並ぶ中、一際目立つダウンロード数。
十万越え。他と比べて千倍近いダウンロード数だ。
ペケセブの閲覧数もそのキャラ関連だけ、ぐーんと伸びている。
そのキャラとは、とある会社からスマホアプリ用に依頼されたケモミミ街娘のキャラだ。
萌黄色の外ハネ癖がついた髪を肩まで伸ばし、柴犬のピンとなった耳をイメージしたケモミミが特徴的な、明るい性格をイメージして描いた。
服装のイメージはドイツ風町娘。ドイツの伝統衣装であるディアンドルをアレンジして、その上に若草色のストールをかぶせている。
実装時は街を案内する街娘で後にプレイアブル実装する、私がデザインした初の公式キャラとなる予定だった。
過去形なのは、スマホアプリが完成する前に会社が倒産したから。
その後、倒産した会社から権利関係を引き上げて、供養目的に商用以外の利用フリー素材として自分のサイトに上げたという、私にとって挫折の象徴とも言えるキャラだ。
街娘から各クラスチェンジした時の絵とかも書いたりして、かなり気に入っていたキャラだけに、あのときは本当にハートブレイクしてしまった。
頑張って生2Dとか3D勉強して、実装したのになぁ。その間のお給料もなし。つまりただ働き。
そんな因縁があるキャラクターが、いきなりブレイク。
私のような底辺イラストレーターのキャラクターが、だ。SNSから離れて久しいので、流入経路がさっぱり分からない! と頭を抱えた。
底辺になれすぎてエゴサなんて調査法をとうに忘れてしまっていた私は、慌てて余り利用しないツブヤイターやら資料探しでお世話になっているベーグルで検索をかける。
そして行き着いたのは——。
△▼△▼△▼
『スキル無しでスキルの効果を覆すにはステータスがスキル効果後の数値を超えないとだめ——だっけ?』
あきち《そういうこと。越えない限りあの物理無効結界を越えられない》
タナ《あのクソリッチを物理的に倒すには、力のステータスが推定600を越えないとだめってことだわね》
考察班A《つまり、今までの成長率からいうと、後レベルが12ほど足りないな》
ふぁー《ふぁー! やっぱこの世界、スキル効果倍率が高杉!》
OPPA《やっぱスキル無しはつれぇなあ》
『レベル上げしないといけない、か』
あきち《がんばれ。編集は任せろ》
ふぁー《がんばれ。うちは応援しかしないけど》
応援するBOT《がんばれ♥ がんばれ♥》
OPPA《だれだここにBOT入れたヤツ》
神(髪はない)《私だ》
OPPA《お前だったのか》
タナ《はいはい、いつのネタよそれ》
『ま、レベル上げは苦じゃないからいいけど……みんなありがとな』
アーツベという動画サイトの生放送で、私のキャラが喋っていた。
正しくは、私のキャラっぽい女の子が、だ。
コスプレと言えばいいのだろうか。やたらとリアルな質感が、立体感が、私の絵のようなのっぺり感がない。
というか耳、動いてるし。尻尾も動いてるし。
そして、何故かベビードール姿だ。生地は綿なのか透けていないので色気はないけれど、あぐらをかいているせいでベビードールの裾からショーツがちらちらするのが気になる。
となとな《なに、これ》
気づいたら私は放送コメントに書き込んでいた。
そのコメントに気づいたのか、コスプレ女の子の目が限界まで開く。
『えっ、えっ、となとなさん?!』
私のハンドルネームを叫ぶ女の子。
それに反応して、視聴者のコメントが加速する。
《神降臨?!》《遂にばれてしまったか》《そりゃあんだけDLしてりゃあな》《あ、ボクもデスクトップマスコットに使ってます》《ふぁー! となとな神!》《創造神降臨か……俺は歴史を目撃した》《ハゲキャラ描いてください》《描く必要無いでしょ》《そういや商用目的以外って書いてたけど、この場合はどうなるんだ? 普通に編集して公開しちゃってるけど》《難しい話は掲示板でしろ》《是非ベビードール姿を描いて……ちょっ、首絞めないで》《既婚者だったのか? 爆発しろ》《爆発しろ》《爆発しろ》《液体窒素を胃に流し込んでやろう》《そのあとケツバットしてやろう》《カオスすぎない? となとな神が困惑してるぞ?(予想)》《男の娘って描いてます?》《神に性癖を求めるな。胸が大きい子って描いてます?》《OPPAさん……そういうとこやぞ》《ツブヤイターってもう使ってないんですか? 鍵アカだったのでアポイントメントのDM送れないんですよ》《ガチ案件かよ》《過去の同人誌ってまだ売ってます? 電子書籍でもいいんで!》《あ、私も読みたい。レイちゃんが自慢するんだよね〜》
コメントの奔流で私の目と理解が追いつかない。
ちょっとまって、今、仕事の話なかった?
くっ、心が折れてからツブヤイターを鍵アカにしたのが裏目に……!
じゃなくて、一体全体なにが起こっているの?
あと私を神っていうのやめて! 世の中の神絵師に失礼だから!
『ちょっと、みんな落ち着いてくれ!』
彼女の声でコメントが落ち着く。
かわいい声だなぁ、明るくはつらつとして、私がアニメ化を夢想してたときの声にそっくり。
何故か男口調だけど。
『えっと、となとなさん、はじめまして。俺はレイトって言います。
となとなさんのファンです。同人誌は全部持ってます。
となとなさんが参加している即売会も全部参加してます。
覚えててくれたらうれしいけど——この姿じゃわからないか』
レイトさんが私に向かってご挨拶。
となとな《あ、ご丁寧にどうも。はじめまして……ってこの姿?》
釣られて私も挨拶をするけど、疑問符ばかりが浮かぶ。
底辺イラストレーターの私の同人誌を全部持っているのに、私自身がそんなファンの顔を知らないはずがない。
声を聞いて思い出せないならまだしも顔を見ればすぐに分かるだろうし、こんなかわいい子を忘れるはずがない。
『えっとそうですね、詳しい経緯はあとで説明するとして……ざっとWeb小説の長いタイトル風に言うと、
【バーチャル美少女受肉中に異世界転移した上、拾ってくれた勇者パーティから追放された件】ですかね』
うん、全く意味が分からないよ、レイトさん。
この後、あきちさんという人が編集した彼女——いや、彼の動画を見て理解した。
そう言うしかないわ、これ。
バーチャル美少女受肉中に異世界転移した上、拾ってくれた勇者パーティから追放された件 犬ガオ @thewanko
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