Ⅰ 大好きな日々よ、さようなら

 名草、高校二年生。無事に志望校であるT2に無事合格し、現在は機械科の所属である。部活も名草が入りたがっていたロボット競技チーム『Glossum(グロッサム)』に入部することができた。さらに、1年生からの努力が実り、今年の夏の大会では3部隊に分かれているうちの第2部隊のリーダーに選ばれたのだ。部隊とは、いわゆるグロッサムのメンバーを3つに分けた際の呼び方で、それぞれがロボットを製作し、学校代表として大会に出場する。大会に出場できるロボットは3台までで、ちょうど3部隊が出せる。しかし、上位大会に出場する権利を得られるのはそのうち最高2台。例えグロッサムが3台とも上位に上がれたとしても、上位大会の出場権を得られるのは2台のみなのだ。それ故に、たとえ同じチームであっても、部隊が違えば敵同士、ということになる。去年は残念なことに、どの部隊も上位に上がることはなかったが、今年は今のところ、第1部隊と第2部隊が候補に挙がっているところだった。


 大会前日、第1部隊のリーダーが名草に声をかけた。


「えっ、今年もしかしてミサンガ無いん!?」


「え、欲しいんですか?」


 名草はあきれた声を出した。それに対しリーダーは「むー」と不満そうな顔をした。そんなリーダーに、一人の男子が近づき、耳打ちした。


「大丈夫っすよ、こいつ前もって作ってたんで、今日の帰りに配られますよ」


「あっ、ちょ、夕樹!お前!」


「まじか!期待するね」


「うっ…!わ、わかりましたよ…」


「佳乃先輩のところの機体はどんな感じですか?」


 動揺する名草をよそに、夕樹と呼ばれた男子がリーダー…佳乃に質問する。佳乃は少し悩んだのちに、夕樹に答えた。


「各機構に問題はないけど、今回の操縦者が心配で…」


「ああ、楓信ですか?」


「そうそう、あいつずっと遊んでばっかなんよ。羽鳥はどう?」


 突然名前を呼ばれた名草は「ふえっ」と間抜けな声を出した。ミサンガの件で話は終わったと思い込んでいた。



「うーん…いやあ…負けないように、頑張ります、的な?」


「なんだそりゃ」


 佳乃が呆れながら笑う。名草は少し顔を赤くしながら俯いた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

トリルノース・ナイン 冬雪 依織 @Fuyuki_Io

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ