僕に施した術式は

 「優くんっ!!優くんっ!っ!」

 涙堪えて、跳躍したならば、僕の体にダイブしてくる。

 「?!うぎゃぁあ!!」

 途端に激痛が走る。

 当たり前だ、僕は今、お腹に傷があるんだ、痛むよ。

 それでも、灰色ノルはどこうともしない、涙堪える力も相まって、あの慰めのお菓子会直前以上の力で抱き締めを行った。

 「っ!っ!」

 「痛い痛い痛い!!!分かった。分かったからっ!!」

 懇願。痛みで気絶しそうだ。

 「うにゃっ!!ご、ごめん。あたし、つい……。」

 「……うぅ~……。」

 通じたのか、灰色ノルはハグを解く。残る痛みに唸りながらも、僕は灰色ノルを見つめた。

 涙目で、ちょっとした衝撃で泣き出しそうだった。そっと涙を拭ったなら、嬉しそうに微笑む。僕が、無事であったからか。

 「……ごめんね。あたし、つい嬉しくて。……そうだね、まだ馴染んでないから……。でも、事実だよね。……もう、一人だけの体じゃにゃいもんね……。」

 「?!」

 謝罪に、嬉しそうに、……僕に不穏を抱かせる言葉をさらりと言う。僕は目を丸くする。

 「な、何だって?!」

 思わず驚きを漏らす。

 「……あたし、初めてだったんだよ。……痛かったんだからね……。」

 僕の腹の上に跨ったなら、急に恥ずかしそうにもじもじしだす。僕に、いや、灰色ノルに何をした?!記憶のない間に僕は、何てことを?!

 混乱してくる。

 「はぁ……。」

 呆れた溜息が一つ漏れる。傍で、僕に話をしてくれていた博士のだ。

 「……誤解を招くようなこと言うんじゃない!そういうのは、大人になってからだ!」

 「みぎゃっ!……うぅ~。博士がぶった!うわぁぁん!!」

 言って、ポカンと博士は灰色ノルの頭を小突く。それがきっかけで、涙が堰を切ったように溢れ出した。

 「……全く……。」

 「……あの、博士、灰色ノルが言ってたのは……。」

 「……気にするな……で済ませたかったが、ちょっとな……。」

 呆れ顔の博士に、僕は言っていたことは何だろうと、不安を漏らす。

 言われた博士は、普段と違って、はっきりしない様子だった。

 間を置いて、頭をまた掻いて。

 「仕方ないか。こうなっている以上、もう隠しても……。」

 決心する。

 真剣な眼差しを僕に向けたなら。

 「……優、お前の傷の治療に、〝特殊〟な方法を用いている。何せ、設備の乏しいこの状況下で、最大限の治療効果が期待できるのが、まさしくそれだったからな。」

 「……。」

 話し出しに、また僕は唾を飲む。

 「……灰色ノルの、幹細胞を移植している。何せ、こいつの細胞は、非常に分裂能が高くてな、治癒効果を発揮できる。まあこれも、あたしの研究だからな。お前には、それを施したんだ。……すまんな。本当なら、同意とか取るべきだったんだが、命を考えると……。」

 「博士……。」

 僕に、灰色ノルの幹細胞を移植したらしい。なるほどとも、感じてしまう。灰色ノルの変な発言は、これが由来だったのか。

 「……ありがとう。」

 僕は、精一杯治療したのだろう、その博士に、感謝を述べた。

 「……気にするな。せめてもの、だ。それに、一応安全の確認されている方法だ。どこかでお前が気にすると思うから、予め言っておくけれど。拒絶反応とか気にしなくていい。すぐに馴染む。」

 「……。」

 僕は、博士の言葉にこっくり頷く。

 ふっと、博士は安堵したような溜息一つ。言葉を区切る。

 そっと、外の様子を見たなら、夕刻もだいぶ過ぎ、夜の帳が降りそうな感じ。博士はそうだなと、頷いたなら、ポケットからケータイを取り出す。誰かに連絡をして、それを戻す。

 「迎えをよこした。……本当なら、経過観察とかで入院という流れなんだが、あれだ、あたしの立場を考えたら、それも無理な話だ。一応、送らせる。すまんな、何から何まで、こんな非常識で、な。」

 僕に向き直ったなら、また詫びるような感じて言ってくる。

 僕は、気にしていないと首を横に振る。博士のことを考慮したら、仕方ないんだろう。

 ちょっとすると、また保健室の戸が開いた。二人ほどの足音が近づいて来る。

 「!」

 目を向ければ、見覚えのある二人だった。バンド〝ヴィジランテ〟の二人。

 それぞれ、僕を見るなり申し訳なさそうな顔をした。

 「あの、博士?……知り合いなんですか?」

 この二人と博士は、どういう間柄なのだろうか。聞いてみる。

 「知り合いも何も、その娘ら、あたしらを守っている組織の一員さ。警護の他、送迎も請け負ってくれる。……何だ?お前も知り合いだったのか?」

 「……いえ。ただ、ライブとかよく見掛けたから。」

 「あ~。まあ、こいつら有名だからな。」

 警護の人だったらしい。僕との馴れ初めは大したことはなく、単に路上ライブで聞いたぐらいで、博士は聞いて、なるほどという感じだ。

 「ん?待って……。まさか……。」

 警護の人であったと改めて考えてみると、僕はまさかと思ってしまう。

 「……まさか、レンや僕を撃ったのって……。」

 「!!」

 「……。」

 僕の口を突いて出た言葉に、例の二人は身をすくめる。


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