2話  急転直下

2.急転直下


カルディア剣山は、このカルディア大陸の中心に位置しており、もし剣山が爆発したとなれば、各国周辺に多額の被害が出るはずだと国お抱えの科学者たちから言われてきていた。

そして、最悪なことに、このシンとシーラの婚約の儀式の日に、大爆発を起こしたのであった。

世界の中心にそびえたつ剣山からは、大きく黒い煙が空を覆い隠し、火花さえも見えるほどの悪天候へと変貌した。周辺には大きく炎がついた黒い岩石が黒い雨のように轟轟と降り注ぎ大勢の死者、負傷者を出していた。

王宮内も例外ではなく、大きな岩石が城の塔の一部に当たり、その塔が崩れ落ちることも見舞われた。宴のために準備していた大ホールはすぐさま負傷者が運ばれ、食事は救援物資へと変貌を変え、各国の主要人達は傷の応急処置が終わり次第、帰国の準備へと取り掛かった。自分たちの国の被害状況を一刻も早く知るためである。

ユーデン国、国王は臣下たちに檄(げき)を飛ばすべく言い放った。

「これは未曽有の大災害として、一刻も早く復興するよう全員務めよ!」

「ははは!!」

臣下、側近の貴族たちは王宮内で各自国の調整に当たっていた。しかし、次々に報告される悲惨な状況に遺憾たる思いであった。

剣山周辺では火の海が流れてきて、とても水の消化活動はできず、家財、思い出が詰まった家が無残にも静かに焼かれていくのを見るしかできなかった家族もいたとシーラ達、王宮内では報告を受けていた。

しかし、それ以上に頭の痛いことに、噴火後に大量に上空にまき散らしている灰によって、冬とはいえ収穫前の作物等が枯れ始め、冬が明けたら凍っている飲み水も上空に降り続く灰により飲むことが困難だと予想された。そのため、動物たちが食べる物がなくなり強盗、略奪も増えているということだった。犯罪が増えると国が傾く前兆と言われており、不吉なことだらけだった。

「これは、建国以来の非常事態ではないか。このままでは国が亡びるぞ」

外の異常な光景は、最初、誰の目にも甚大な被害を出していることは明らかだったが、噴火後も長期的に困窮するような事態があまりにも多く発表された。

「わが国だけでなく、カルディア剣山に近い諸国は我々と同じように被害が甚大らしい、、。あの帝国も頭を抱えているそうだぞ」

シーナは国王の傍で、一刻も早く安静の地に戻そうと奮闘して城下町や剣山の周辺の被害状況も、馬を走らせ間近で見に行ったが、どれも復興には気の遠くなるような惨状だった。

「この前ここを通りがかったときは森が、、たくさん生い茂ってたのに、、」

そこは、この前、シーらがシンに会いに行くためにレイと一緒に歩きながら通った森の近くの場所だった。ここの森も、以前は緑豊かに木々が生えており、小さな動物もみられたが、今は大きい岩石がゴロゴロと岩の山が出来上がっており、高く壁となって、シーラ達に聳え立っていた。ときおり森で生計を立ている森人もいたが、全く見かけないか、もともと家が建っていたと思える場所には流れてきたのだろうマグマの黒い海が、いまや石の化石となって固まっていた。

以前は子供の遊び道具が置かれていたのだろう、小さい人形が黒い岩石の中に飛び出ていたが、シーラが掴もうとした手に触れるとボロボロと崩れ落ちた。

「これを、、直すのに何年かかるのかしら」シーラは愕然としていた。

「我が国もひどい惨状らしいが、ここは近いから特にひどいな」

シン達の国王夫妻は噴火直後挨拶を済ませた後はすぐにコンフォート国に帰り、被害にあった場所の対応にあたっていた。そして故郷の国を心配するシンに、我が国のことを手紙で知らせていたのだった。

シーラとシン、レイは他の場所も視察したが、どこも酷い有様だった。

頑張らなきゃ、ここまでいい国がこんな姿なんて、わたし耐えられないわ。

しかし、シーラの思惑とはいかず、難しかった。

国の立て直しに当たっていた国王が倒れたのだった。


国王の間の中央に大きなベットがあり、そのなかで王は横たわっていた。

「すまんな、もうこれ以上無理するとまた倒れると言われてなあ」

「大丈夫よ、わたしたちが頑張るからね」

シーラの他に、シン、レイも傍で控えていた。

「お前たちは婚約した直後だというのに、こんなことがなければなあ」

「私たちの婚約よりもみんなの生活の方が大事よ。大丈夫よ」

シーラは机上にふるまうが、それは嘘だった。だが、父である国王が以前よりもやせ細り、疲労が見える顔色を見れば自然と出た言葉だった。

「そうです、王はゆっくり休んでらっしゃらないと」

シンもさすがに心配そうに言う。

「そうなんだが、シーラ、お前にはきついことになるだろうが、今後はお前が指揮をとれ。」

国王はシーラに瞳を見つめたまま言った。

「ユーデン国は女王君主だが、母親がいない以上、私が国王としていたが、このような状況ではシーラが女王として国を動かすのがふさわしいだろう。シン王子はまだこの国に婿としてきたばかりだしな。」

「お父様…」

「そして、レイ。このような状況、お前はどう考える?」

傍に控えて立っていたレイは、静かに答えた。

「世界を揺るがすような動乱が起こることが指し示すことは一つです。国王。神との対峙がきたと思われます」

シーラ、シン達に静かに衝撃が走る。以前、帝国と剣の戦闘になった時があり、レイが私をかばい剣に当たり、レイは胸を刺されたのだ。

私はレイが死んだと思って居たのだけれど、そのあとで、この世界の秘密にしていることをレイ、シンから聞かされていたのだった。けれど、、、。

こんなにはやくも神と対峙するようになるとは思わなかったのだ。

「そうか……。レイ、すまんが、その準備をお前に任せるぞ」

「わかりました。お受けいたします」

レイは一礼して頭を下げた。

「それと、シン王子。娘をよろしく頼む」

「わかっております」

そして、シーラ達は国王の間から退出して、国王ただ一人だけとなった。

シーナも大きく成長した。もうこの国の席を譲ってあの二人に任せられる。だが、やはりあの選定者としての役目までも背負うことは早すぎる。

広い室内で王はポツリと言葉を口にした。

「やはり運命は変えられんのか………なあ、セレネ」

国王の部屋に飾られた大きな肖像画、シーラの母親である、緑色の瞳をしたセレネに問うが、絵はただ静かに見ているだけだった。


「レイ、これも、、この世界の決まり事なの?」

シーラ、シン達はレイが向かう方へ後をついて歩いていた。レイがある場所にきて欲しいというのだ。

「はい、世界は必ず試練が来るようになっています。そして、神がその住人たちの動きを見定め、選定者の意見も聞いて、定めを決めるのです」

「けど、急すぎるわ。選定者として会うなんて…王の代わりに皆を引っ張るのも、今更になって怖いし、、、」

「試練というものは、いつも急におこるものです。いつの世も。ですが、お嬢が神と合わせることに私も不安がないというわけではありません」

「それなら、、」

シーラは、レイも一緒にきてよと言おうとした瞬間だった。

しかしー。

「お嬢が女王として、いずれこの地を納めるにも、最終段階がきたようです」

「最終段階?」

レイの歩きがとうとう止まった。

「着いたのかレイ。初めて来るが、ここはどんな場所なんだ?」

レイが止まった場所は、この国がつくられた初期の遺跡が残る場所だった。王宮とは少し離れた王宮の広大な庭にある小高い丘であり、瓦礫のようなものが数多く積み上げられつるの緑の植物が絡まっており小高い丘のように見えるのだった。

「シン王子、ここはお嬢が、貴方を鍛え上げることへの最後の授業が詰まっている場所ですわ」

シーラはレイの言葉がわからなかった。

「こんな場所で授業するの?レイ、そんなことよりも、神と対峙するんじゃないの?」

「それに、国の復興をしなくちゃ、仕事が山済みだな」シンも言葉を添えた。

レイは背筋を伸ばして、ニッコリとほほ笑んだ。

「お嬢、そしてシン王子はお手伝いとしてある場所に行っていただきます。遥か昔の遠い場所で、国の内乱を収めるのです」

「ええええ!?どうやって。それに、レイ、あなた、不死の身体である以外は何も特殊な能力ないって、言ってたじゃない」

「確かに私は何も使えませんが、守護する者として記憶を治めた水晶を持っております。お嬢、これを持って行ってください」

レイが渡してきたのは、ただ透明な水晶にみえた。

「え、ちょっと待ってよレイ。内乱を治めろってどういうこと?」

「貴方にはまだ女王として、選定者として足りないことがあります。今から、身一つで行ってもらうのです。もちろんシン王子は婿殿として付き添いを許可しますが」

レイの言葉はなおも続いた。

「今まで貴方様を、姫としては異例の剣として、野外活動も鍛えたのは全てこのためです。」

「内乱を治めろろって、、、他国では女で身分もないなら、私ができるわけないじゃない!おかしいわよ。レイ、そんなために私を今まで王宮で鍛えてきたの?そんなのひどいわ!」

シーラは悲しかった。レイと一緒に楽しみながらしていたことが、レイとしては選定者としての役目の一つでしかないことに……。

「ですが、お嬢、貴方はこのユーデン国の王女として生まれたわ。そして、選定者の血も。誰も、どのように生まれるかは、できないのよ。たとえ、その道が困難で、いばらの道であってでも!!!」

泣いているシーラに、レイは、辛抱強く説明を続けた。

「この国だけじゃない、帝国のあのチビだって、シン王子も、そして、私もです」

「レイが……?」

「はい。私がいた世界でも生まれてくる世界、場所は選べませんでした。生まれてくる場所が、荒野であればすぐに命を落とす赤子もいる。例え生き延びられたとしても、他の生命、生き物に喰われたり、悪に染まる者もいました。けど、それでも、みな、悲しみを乗り越えて生きてきたのです。それを、今回、私がシーラ王女に対して、最後の授業として行うものがあります」

「レイ?」

「遥か昔、この世界ができたばかりのころ、貴方のご先祖様であられる方がいますので、しっかりと学んできてくださいね。お嬢には、世界の誕生の地へ、行って貰います」

「え、レイ、待って。この光って、なに!?」

「レイ、もっと説明しろ」シンが叫ぶ。

「シン王子はオマケとして見に行くんですよー♡」

「オマケ!?どういう意味だ」

「私はいつまでも貴方たち二人の成長を見守っています」レイがほほ笑んでいると、ブワッと白く光がシーラの周りを囲い、そしてもうシーラ、シンの身体はどこに向かって落ちているのかも、飛んでいるのかもわからない、空間の中で浮いていたのだった。そして、空間の奥に、声が聞こえてきた。その声に吸い寄せられるように、声がする方角へシーラとシンの身体は飛び込んでいた。


ジャリ。

う、ううん。なんだろう。口の中になにか……。

シーラはモグと口を動かすと、今度ははっきりとジャリジャリ!と口の中に響いて、飛び起きた。

ちがう、これ、砂だわ。え、何で口にぃ!?

「ぺ、ぺ、なによ、砂がたくさん……」

起き上がりながらあたりを見渡すと、手元には水晶が転がっており、外の風景は土、砂、山だろうか、遠くには塔と、大きな剣山が見えていた。茶色であった。私たちがよく目にするカルディア剣山とよく似ているわね。

植物の気配は全くなく、ましてや、人ひとりもいない荒野にシーラはいたのだった。そして、強い風が吹き荒れており、シーラは横になっているときに口に風で飛ばされた砂利が入ってきたらしかった。

ここは……。いったい……。

そう思ったときだった。シーラの傍に立っているリスがいたのだ。ちょこんと立っているだけでも可愛らしかった。

「わ、びっくりした。なんでリスがここに?」

シーラがそういった瞬間ー。

「シーラ、俺だ!俺だよ!レイのやつ俺をリスに代えやがった!!」

「え!!シン!?中身シンなの!?」

「そうだ!!気がついたときにはリスの身体で、ショック受けてたらシーラが起きてきて………て、おい、なに笑ってやがる」

「アハハハハハハハ。だって、そんな可愛い顔で難しいこと言うんだもの。大きい難しそうな表情のシンがそんな可愛い動物って、、シン可愛すぎるよー」

シーラはお腹を抱えて笑っていた。

シンであるリスはムカついているよな雰囲気をだしていたが、突如として話を変えた。リスであることに討論することを諦めたらしい。

「それよりシーラ、ここはどこだと思う?何にもない場所なんだが、あのデカい山といい、馬鹿デカく伸びたあの塔も気になるな。」

リスであるためか動きが機敏になったシンは、シーラによじ登り方にとまった。そして、シンが言う塔とは、細長く雲まで届きそうなくらい細く、大きい塔が遠くからでも見てとれた。

「え、ああ、そうよね。あきらかにさっきの場所じゃないけど……」

シーラはそこまで考えたが、ふと、レイについて頭がよぎると怒りが湧き上がってきた。

そういえば、私、レイにできないわと言ったら、光に包まれて、まぶしくて……どこかに飛ばされたんだわ!!ぐぐぐぐ、何にも持たせずに異世界へと送る馬鹿がどこにいるっていうのよ。

「ここ、どこなのよー!!!!レイのアホたれーーーーーー!!!!!!」

「わ、シーラ、急に叫ぶなよ」

シンはリスの耳を抑えて言う。

荒野に力の限り叫んでも、全く変化はなかった。レイが出てくる気配さえない。

あースッキリしない。一応叫んでみたけれど、風が強くて飛ばされてきた砂が、口に砂が微かにはいってくるだけだった。

どうしよう。そう思ってシーラが涙ぐみながら後ろを振り返った瞬間だった。

眼以外は、頭、口元を白い布で巻き付けている一人の男性がすぐそこに立っていたのだ。

げ、さっきの叫びきかれちゃった!!!!、ううん、それより、こんなとこに人いたーーーーー!!

リスであるシンはすぐさまシーラの髪に隠れた。

「す、すみません、あの、道をお尋ねしたいんですけど、というか、ちょっと、お聞きしたいことがあるんですけど……」

男はジーとシーラを見つめていたが、

「貴方はどちらから来たのか。みたところ、見かけない変わった服装をしているが……」

不愛想に質問してきた。ふと、男の服装を改めて良く見たシーラだったが、なるほど。確かに、シーラ達がいた世界では見かけない意匠の服だった。男もシーラが着ている服が珍しいのか、脚の先から頭までジーと見ている。

「あ、いえ、ユーデン国というところなんですけど。」

「ユーデン国?知らぬ。何も持っていないようだが、この場所で夜を明かすと死ぬぞ。」

なんにもない荒地だから、見たまんま、そうでしょうね。そんなとこに移動された私達って……悲しいわ。

「あ、あの、私、連れとはぐれてしまったんです。すみませんが、一緒に街でもいいので、連れて言って貰えないでしょうか?」

シーラはこの際、なりふり構ってるわけにもいかないので、連れとはぐれたと嘘を言って、薄汚れた布を巻いている格好の、この男について行って、何とかこの荒野から離れようとした。

そうしなきゃ、ごはんなんてない。飢え死に決定よ!冗談じゃないわ。

「お前……」

そのときだった。

「おーい、シュデリア。空から落ちてきたもんはあったかよ。って、お前、そのチビどうしたんだよ」

声をかけながら歩み寄ってきたこの男の服装も最初に出会ったこの男と同じように眼以外は布で覆った服装をしていた。名前らしきことを言っており、仲間であることは間違いないようだ。

「ん。…………………………拾った」

こうして、ユーデン国王女シーラ、リスのシンはシュデリアという男に拾われ、その御一行と出会ったのだった。




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