その8

●これまでのあらすじ

 結局ナオハルの買ってきたビキニアーマーは、先着一名限りの一点物として、獅子ししりゅう迷宮のラスボスの間に配置された。さあ、どんな冒険者がこれを手に入れてしまうのかな?


◆ ◆ ◆


『……え、ビキニアーマー? な、なんで薬草じゃなくて、こんなものが……?』

 本日最初に獅子竜迷宮を訪れた冒険者が、ラスボス部屋の宝箱から出てきたセクシー装備に目を丸くし、顔を赤らめている。

 僕はその光景を、楽屋にある監視システムでこっそり窺いながら、冒険者とは対照的に、ただひたすら真っ青になっていた。


「リ、リオ、なんで君がよりによって――」

 よりによって、なぜ今日一番に来てしまったのさ……。

 今回の騒動に一番触れてほしくなかった幼馴染の姿に、僕はもう絶句するのみだ。

 そんな僕の視線を感じてか。リオは赤く染まった頬をムスッと膨らませ、ラスボス部屋の天井を仰いだ。

『これ、ナオハルが用意したの……?』

 それ以上は何も言わず、彼女はビキニアーマーを自分のアイテムバッグにしまい、足早に獅子竜迷宮を引き上げていった。

 あーあ。後でものすごく問い詰められるだろうな、あれ……。

「ナオハルさん、自業自得ってやつですよ」

「うん、全部僕が悪いよっ」

 横でニヤニヤしているフェリスに向かって、僕はただそう吐き捨てた。

 ダンジョン経営は、今日も大変だ。


         ♡


 大きな姿見の前に立って、リオは火照らせた肌を、小さく震わせた。

 町にある女性冒険者用の寮。その一室である彼女の部屋は、今、カーテンさえ固く閉ざされ、薄暗く、どこか蒸し暑い。

 ……いや、熱くなっているのは、リオの体そのものだ。

 下着さえ脱ぎ捨てた彼女の裸体に絡みつく真紅のビキニアーマーは、まるで思春期の乙女の敏感な柔肌をもてあそぶかのように、その肢体をなまめかしく飾り立てている。

「や、やだ、こんなに見えちゃうの……?」

 試着した新装備を前に、リオは恥ずかしげに呟いた。


 金属プレートの張られた三角の布は、少女の恥かしいすべてを、決して隠しきってはくれない。わずかな面積の端から、豊かな胸や、引き締まったお尻の丸み、そしてなだらかな下腹部が、これでもかというほど顔を覗かせている。

 裸同然。いや、この姿で冒険に出ることを思えば、裸よりも遥かに恥ずかしい――。

「だ、ダメよ。こんなエッチなの、ダンジョンに着ていけるわけないじゃない……」

 リオは長い黒髪を揺らし、まるで身悶えするように、首をぶんぶんと横に振った。

 そう、こんなもの絶対に着れない。着れる時があるとすれば、それは……人間に戻ったナオハルと、二人きりになれた時――。

「うぅ、ダメダメっ! 私ったらいきなり何を妄想してるのっ?」

 リオは思わずブルッと身震いすると、慌ててビキニアーマーの上から毛布を被り、恥ずかしい装備をもぞもぞと脱ぎ捨てた。



 そう、いつか「その時」が来るまで――。



(おしまい)


◆ ◆ ◆


※本作は、2014年11月に発行された読者プレゼント用小冊子『スニーカー文庫の異世界コメディがおもしろいフェア 異世界だらけのストーリー集』に掲載された自作品を、スニーカー文庫編集部の許可を得て掲載したものです。

 なおカクヨムに掲載するにあたり、読みやすさを考慮して、分割・改行・あらすじ等を追加しています。

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