その7

●これまでのあらすじ

 ついにビキニアーマーを買ってきたことが女子二人にばれて、もはやヘンタイ認定待ったなしのナオハル。絶体絶命と思われたその時、まさかの助けが――!


◆ ◆ ◆


「皆さん、ちょっと待ってください!」

「フェ、フェリスっ?」

 そう、フェリスだ。日頃は僕に茶々を入れてやまない彼女が、なぜか仲裁でもするかのように、割り込んできた。

 そして、何を言うのかと思いきや。

「セレナさんもタニヤさんも、誤解を解いてください。そのビキニアーマーは――私のですっ!」

「えっ?」「うそ?」「ぎゃう?」

 僕も含めて、妙な声で反応する一同。フェリスはそんな僕らに向かって、無駄に得意げに頷くと、タニヤの手からひょいとビキニアーマーを取り上げた。

「これは私がナオハルさんにお願いして、買ってきてもらったものなんです。だから、ナオハルさんはヘンタイなんかじゃないです」

「え、そうなの? ……でも、何でフェリスがそんなものを?」

「そ、それはですね……。まあその、私もこういうのに興味がある歳ですからしてっ」

 明らかに胡散臭い言い訳をかまし、フェリスはコクンと頷いた。「こういうの」って、どういうのだよ。

 しかし、セレナもタニヤもキョトンとするばかりで、言い返す言葉は出てこない。二人は顔を見合わせ、それから、僕とフェリスとビキニアーマーとを順番に見やり。

「まあ、フェリスがそう言うんなら、それでもいいけど……」

「ぎゃう。次はタニヤも買ってもらうっ」

「分かっていただいて感謝です。さ、二人とも掃除に戻ってくださいっ」

 フェリスにそう促され、セレナとタニヤは、ようやく引き上げていった。


 そして――後に残った僕に、フェリスは満面の笑みを向け、こう言った。

「ナオハルさん、お掃除当番一ヶ月分で、このまま皆さんに黙っといてあげますよっ」

「うぅ、それが目当てか……」

 まあ、そうなるよな。フェリスが純粋に僕を助けてくれるわけないよな。

「まあまあ、いいじゃないですか。このままリオさんにまでばれるよりは、遥かにマシな結末でしょ?」

「そ、そりゃそうだけどさ……」

 僕は溜め息をつきながら、肩を竦めた。


「ところでフェリス」

「にゃ、何ですか?」

「ああ。僕がビキニアーマーを隠してたこと――気づいてたのか?」

 ふと気になって、僕は訊ねた。フェリスの機転は、最初からビキニアーマーの存在を知っていたとしか思えないものだったから。

「当然です!」

 そして案の定、フェリスは頷いた。キュロットスカートのポケットから、一枚の紙切れを取り出しながら。

「ナオハルさんの置いてった革袋の中に、これが入ってましたからね!」

「これって……うわっ、店で貰ってきた領収書、回収し忘れてたっ!」

「ええ、明細もバッチリ載ってます。『ビキニアーマー(セクシー用)×1』って」

「ま、まさかそんなトラップが……」

 ……うん、ひどいオチだ。

 僕は思わず肩を落とした。フェリスはそんな僕に向かって、にゃはっと笑ってみせた。

獅子ししりゅうの経費で買った以上、このビキニアーマーは私が自由に扱います。何しろ私、ここの迷宮長マスターですからねっ!」

「はいはい、好きにしてくれよ……」

「それじゃ、さっそく着てみますね?」

「え、フェリスが着るのか?」

「こんなの、着る以外に何に使うってんですか。まあ、ここは一つ、ナオハルさんの性癖をリサーチするってことで」

「なんでそんなリサーチが必要なのさ!」

「言わせないでくださいよ、うにゃん♪」

 どうして反応していいか分からない僕に、フェリスはにまーっと微笑むと、そのまますたすたと自分の部屋へ引き上げていった。

 何だろう。すごく胸騒ぎがする……。



「うにゃっ、何ですかこれ、カップが余りまくりです! 私のことおちょくってんですかっ! こんな失敬なビキニアーマーいりませんっ!」

 あーあ、部屋でヒス起こしてるよ、案の定……。


   *


 結局問題のビキニアーマーは、翌日の獅子竜迷宮の最深部に、「特別なお宝」として配置されることになった。

「先着一名の一点物です。誰が持っていっても、これで後腐れなしですねっ!」

「ああ、そうだね。一番平和な解決策だったよね、これが」

 僕とフェリスは、虚しさに満ちた顔でそんなことを話しながら、宝箱にビキニアーマーを収めて、ラスボス部屋に置いたのだった。

 そして――。


(続く)


◆ ◆ ◆


※本作は、2014年11月に発行された読者プレゼント用小冊子『スニーカー文庫の異世界コメディがおもしろいフェア 異世界だらけのストーリー集』に掲載された自作品を、スニーカー文庫編集部の許可を得て掲載したものです。

 なおカクヨムに掲載するにあたり、読みやすさを考慮して、分割・改行・あらすじ等を追加しています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る