その6

●これまでのあらすじ

 ビキニブラをピヨさんに奪われたナオハルは、セレナにいろいろ誤解されたまま、ピヨさんを追う。その先に待っていたのは、タニヤだった。


◆ ◆ ◆


「トリちゃん、こっち!」

 タニヤがピヨさんに向かって大きく腕を振る。しかも、その手に握られている赤いヒラヒラしたものは――。

「た、タニヤっ、どうしてそれを君がっ?」

 それは、間違いない。ピヨさんがくわえているブラの片割れ。真紅のビキニパンツだ。

 ピヨさんはタニヤの前で足を止めると、彼女の手に、ペッとビキニブラを吐き捨てた。

「ありがと、トリちゃん! 見つけてきてくれて!」

「ゴゲッ!」

 さも「お仕事完了!」とばかりに、満足げな面持ちでノシノシ去っていくピヨさん。一方タニヤも、手元に揃ったビキニアーマー一式を、嬉々として見つめている。

 僕はそんなタニヤのもとに追いつくと、荒く肩で息をしながら、彼女に言った。


「タニヤ、それ返して……」

「ぎゃう? これ兄ちゃんの?」

「ち、違うよっ?」

「じゃあ返さない。これタニヤがもらう!」

「もらってどうするのさ。まさか、タニヤが着るのか?」

「違う! イモウトがさっきこのパンツ拾った。気に入ってたから、ブラとセットでプレゼントする!」

「……妹さんが? ゾンビなのに?」

「ゾンビだってビキニアーマー着る!」

「やめてくれ! 腐乱死体にこれ着て徘徊されたら、僕はもう二度とビキニアーマーを愛せなくなるっ!」

 ……って、何を言ってるんだ僕は?

 もはや口を開くたびに迂闊うかつな言葉しか出てこない。とにかく今は、タニヤの手からビキニアーマーを取り返さないと――。

 ……あ、でも取り返したら、僕がビキニアーマーを所持しているヘンタイだってことが知られてしまうのか。くそっ、こうなったら上手く誤魔化して――。


「なあタニヤ、実はそのビキニアーマーは、お宝として購入してきたものなんだ。返してくれないかな?」

「ぎゃう? 兄ちゃん、ヤクソウセンモンって言ってた。でも兄ちゃんビキニアーマー欲しがってる? 兄ちゃんヘンタイ?」

「うわぁ、無理だ、誤魔化しきれない……」

 思わず頭を抱える僕。そこへさらにダメ押しと言おうか。ようやく僕に追いついてきたセレナが、真っ青な顔で語りかけてくる。


「人間くん、私そろそろ限界だよ? どうして人間くんは、いっつもいっつもセクハラで頭がいっぱいなの? あんまりひどいと、人間くんが今までやってきたセクハラ行為、全部リオさんにばらしちゃうよっ?」

「やめてくれセレナっ! そんなことをされたら、僕は二度と人間に戻れなくなる!」

 リオは僕の幼馴染の、冒険者の少女だ。僕がここで働いていることも知っているし、何より、僕が人間に戻ることを、誰よりも強く望んでくれている。

 そのリオに軽蔑されて見捨てられたりしたら、僕はもう一生立ち直れないはずだ。

(くそっ、どうすれば――っ!)

「人間くん、観念しなさい!」

「ぎゃう、兄ちゃんヘンタイ!」

 セレナとタニヤの視線が、同時に僕を貫く。もはや絶体絶命に思われた。

 ……この声が飛んでくるまでは。


(続く)


◆ ◆ ◆


※本作は、2014年11月に発行された読者プレゼント用小冊子『スニーカー文庫の異世界コメディがおもしろいフェア 異世界だらけのストーリー集』に掲載された自作品を、スニーカー文庫編集部の許可を得て掲載したものです。

 なおカクヨムに掲載するにあたり、読みやすさを考慮して、分割・改行・あらすじ等を追加しています。

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