その5

●これまでのあらすじ

 こっそりバッグに隠しておいたビキニアーマーを、インプさんに奪われたナオハル。慌てて取り返すも、あったのはブラだけ。ナオハルは「僕のビキニパンツをどこへ――」とインプさんを問い詰めるが、その時ふと背後から声が! 見ればそこには、セレナが赤らんだ顔で立っていて――!


◆ ◆ ◆


「ねえ人間くん、今変な単語が聞こえたんだけど。ビキニパ――」

「気のせいだよセレナ! 決してヤマシイことなんか言ってないから!」

「……私にはむしろ、ヤラシイ単語に聞こえたような気がするよ?」

「や、やらしくなんかないさ! だいたいビキニパンツぐらい、男だって穿く時は穿くんだから!」

「ほら、やっぱりビキニパンツって言ってたじゃん! ……って言うか人間くん、まさか普段穿いてるの? ビキニパンツ……」

 セレナが不意に、何かけがらわしいものでも見るかのような目で、僕を睨んできた。その視線に、思わずたまれなくなる僕。いや、こんな言い合いしてる場合じゃないし。

「とにかく誤解だからっ! ほら、早く掃除に戻って――」

 そう叫ぶ僕は、実は密かに動転していたに違いない。おかげで、新たに背後に忍び寄ってきた存在に、気づけなかった。


 不意に、後ろ手に握り締めていたブラが、スッと消えた。誰かが掠め取ったのだ。

「おい、誰だ……って、ピヨさんっ?」

 振り向けば、そこには目つきの悪い巨大なニワトリが――うちで飼っているコカトリスのピヨさんが、くちばしにビキニブラをくわえて、デンと突っ立っていた。

「……人間くん、そのブラは何かな?」

「……ピ、ピヨさんのだよ」

「んなわけないでしょっ! いったいどこからそんなもの盗んできたの! このセクハラ下着フェチ泥棒人間っ!」

「落ち着けセレナ! もはや肩書きが意味不明だ! それに、べつに誰かのを盗ってきたとか、そういうのじゃないからっ!」

「じゃあどうして人間くんがそんなブラ持ってるの!」

「か、買ったんだよっ!」

「…………」

 ふとセレナの目から怒りが消え、代わって怯えと哀しみの色が、すべてを支配した。

 同時に、ピヨさんがブラを咥えてノシノシと逃げ始める。……さて、ここで僕が取るべき行動は二択。懸命にセレナを宥めるか、とりあえずピヨさんを追うか。


「待ってピヨさん、それ返してっ!」

 僕は、プルプルと肩を震わせているセレナを後回しにして、ピヨさんを追った。だってあのブラをほっといたら、被害が拡大するだけだし。

 だがピヨさんは、僕の悲鳴など意に介さず、通路を我が物顔で駆けていく。べつに追いつけないスピードじゃない。ただ、小さなインプと違って、あの巨体を僕が力づくで止めるのは難しい。

「モフッ、つ、捕まえたぞっ!」

「ゴゲッ!」

「ちょ、殺す気満々の目で睨まないでってば。いいからそれ返してよ」

「ゴゲゴゲッ」

「……嫌なの?」

「ゴゲッ」

「頷いたし……。ねえピヨさん、そんなもの持ってってどうするつもりなのさ。ビキニブラは食べられないよ?」

「ゴゲッ!」

 僕を無視して、ピヨさんはまたも走り出した。やがてその向かう先に見えたのは――。

「あ、タニヤっ?」

 ダンジョンの通路の真ん中に、タニヤがちょこんと立っているのが見えた。


(続く)


◆ ◆ ◆


※本作は、2014年11月に発行された読者プレゼント用小冊子『スニーカー文庫の異世界コメディがおもしろいフェア 異世界だらけのストーリー集』に掲載された自作品を、スニーカー文庫編集部の許可を得て掲載したものです。

 なおカクヨムに掲載するにあたり、読みやすさを考慮して、分割・改行・あらすじ等を追加しています。

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