その4

●これまでのあらすじ

 ビキニアーマーを堪能しようとした途端、フェリスに見つかりそうになったナオハル。慌ててビキニアーマーをアイテムバッグに突っ込み、ダンジョンの仕事に戻ったが……。


◆ ◆ ◆


 そして――一日の業務を終えた夕方。

 帰っていく最後の冒険者を見送り、ダンジョンの掃除を始めた最中。事件は起きた。

「……あれ、ビキニアーマーがないっ?」

「にゃっ、どうしたんですかナオハルさん。ブツブツ言いながらバッグ探ったりして」

「気にするなフェリス。それより、掃除を進めてよ」

 そう言いながら、僕は急いでひと気のない場所へ移る。入り組んだダンジョンの中は、こういう時便利だ。


 ……いや、それよりもビキニアーマーだ。腰のアイテムバッグに突っ込んでおいたはずなのに、どこにも見当たらない。

「どこかで落としたのか? それとも誰かが勝手に漁ったのか?」

 それも妙だ。このバッグは今日ずっと腰に着けていたから、誰かに探られれば、さすがに気づく。

 まあ、相手が小型の魔獣みたいな目立たないやつなら、話は別だけど……って。

「あっ、インプさんっ!?」

 ふと嫌な予感を覚えた刹那、顔を上げた僕の目の前を、赤いビキニの紐が、ヒラヒラと横切った。

 慌てて目で追えば、うちで飼っているコウモリ型の魔獣――インプが一匹、ビキニアーマーを尻尾の先にぶら下げて、パタパタと飛び回っている。


「ちょ、いつの間に! インプさん、それゴミじゃないから返してっ!」

 趣味がゴミ拾いというこのインプは、僕のビキニアーマーをぶら下げて、嬉々としてダンジョンの通路を飛んでいく。……いや、「僕の」という言い方にすごく違和感はあるけど、そんなことより回収だ。

「ほら、止まって!」

「キィッ、キキィッ!」

 僕に捕まって、インプがキィキィと抗議する。それを無視してビキニアーマーをむしり取った瞬間、インプの口から僕に向かって、ささやかな攻撃魔法が放たれた。

「うぉ、危ないってば!」

 パチパチと弾ける火花をかわしつつ。僕はひとまず、奪還したビキニアーマーを手に、ふうと息をつく。しかしよく見れば――。


「あれ? ブラだけ?」

 何てこった、パンツがない。

「インプさん、もう一つはどこへ?」

「キィ?」

「キィじゃなくて、パンツだよ」

「キィキィ?」

「だぁかぁらぁ、僕のビキニパンツをどこへ――」

「人間くん、なに騒いでるの?」

「うぉ、セレナっっ!?」

 いきなり後ろから声をかけられ、僕は必要以上に大声で叫んでしまった。

 ビキニブラは急いで手で隠す。そして恐る恐る振り返れば、そこにはセレナが、妙に赤らんだ顔で立っている。


(続く)


◆ ◆ ◆


※本作は、2014年11月に発行された読者プレゼント用小冊子『スニーカー文庫の異世界コメディがおもしろいフェア 異世界だらけのストーリー集』に掲載された自作品を、スニーカー文庫編集部の許可を得て掲載したものです。

 なおカクヨムに掲載するにあたり、読みやすさを考慮して、分割・改行・あらすじ等を追加しています。

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