その3

●これまでのあらすじ

 こっそり買ってしまったビキニアーマーを、フェリス達にばれないように自室に持ち込んだナオハル。さあ、お楽しみはこれからだ!


◆ ◆ ◆


 以上、回想終わり。

 ……いや、ビキニアーマーを手に入れた経緯がまったく入ってなかった気もするけど。まあ、経緯なんて、「市場で格安で売られてたのを見て魔が差した」以外に何もないわけだし、特に語るほどのことでもないだろう。


「さて、念願のビキニアーマー。……どうしよう。ほんとどうしようっ」

 手にしたセクシー装備を前に、僕は自室で一人ブツブツと繰り返す。

 本当に、つい興味本位で買ってしまった。お宝として冒険者に提供するつもりはないけど、かと言って、他に使い道は……。

「べつに誰かに着てもらう当てもないし、だからって、まさか自分が着るわけにも…………。はっ、妄想しちゃったよ、いけないいけない! あーあ、なんでこれ買っちゃったんだろ、僕。もしや、バカじゃないか?」

 口ではそう言いながらも、胸の高鳴りと好奇心は抑えきれない。僕は小さな布地を引っ張ったり裏返したりしながら、その感触を逐一ちくいち手で確かめる。

「わ、ここの部分、ほとんど紐じゃないか。これでちゃんと隠れるのか……じゃなくって、防御力とかどうやって高めてるんだろ」

 とりあえず、もっともらしい疑問など口にしながら、真っ赤な布地を凝視する。

「こ、これ……。頬ずりとかしたら気持ちいいかな?」

 おいやめろキモすぎるだろ僕。

 ……と自分にツッコみつつも、目の前ではまばゆい赤の三角形が、僕を盛んに誘っている。

 こうなっては、とても抑えることなんてできない。もはや男子の本能に導かれるまま、僕は手にしたビキニアーマーに、おずおずと顔を近づけ――。


「ナオハルさん、セレナさんがお昼ご飯用意してくれましたよっ」

「うおぉぉっ? 待てフェリス、すぐ行くからドアは開けるなっ!」

 いきなりドア越しに聞こえてきたネコミミドラゴンの声に、僕は慌ててビキニアーマーを、アイテムバッグに突っ込んだ。

 タッチの差でドアが開かれる。フェリスが立って、焦る僕を眺めていた。

「ナオハルさん、さっきからどうしたんですか? 様子が変すぎますよ~?」

 まるでこちらの心を見透かしているかのような悪戯っぽい目で、フェリスは言った。いや、僕の気のせいなんだろうけど……。

「何でもないさ。ええと、お昼ご飯?」

「何でもない割には目が泳いでますね。まさか、私に言えないような怪しいものでも買ってきたんですか~?」

「そんなわけないだろっ!」

 ……くっ、フェリスのくせに、なんでこんなに鋭いんだ、今日に限って。


(続く)


◆ ◆ ◆


※本作は、2014年11月に発行された読者プレゼント用小冊子『スニーカー文庫の異世界コメディがおもしろいフェア 異世界だらけのストーリー集』に掲載された自作品を、スニーカー文庫編集部の許可を得て掲載したものです。

 なおカクヨムに掲載するにあたり、読みやすさを考慮して、分割・改行・あらすじ等を追加しています。

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