第六章 発動! 最後の作戦 3


       * 3 *


 雪の可能性もあると予報されている曇り空の下、校門をくぐったひかるは無意識のうちにため息を漏らしていた。

 ――十日か。

 十二月ももう半ば。

 紅葉していた葉も急速に地面のゴミとなって、くすんだ色をする空は見上げる価値のないものに塗り変わっている。

 どことなく活気のない校内の空気も、枯れ果てた冬の様相となっている気がした。

 ――あれから、コルヴスは一度も出てきていない。

 ルプスを殺してから十日。

 ステラートは一度も活動を行っていなかった。復讐戦でも挑んでくるかと予想していたが、何もないまま時間が経ってしまっていた。

 初の活動日がステラートの結成日だとしたら、トライアルピリオドの最終日は十二月二十六日。あと二週間足らずで彼らとの戦いは終了となる。

 ――このまま何もないなら、ワタシの勝ちなのかしら?

 トライアルピリオドのパス条件ははっきりしない。ネズミーにもわからないという条件は、しかし正義の味方が正義を示すというなら、悪の秘密結社を倒すこと以外には考えられなかった。

 幹部のひとりを倒したのだから、ステラートよりも有利な位置にいるという自信はある。

 しかしステラートとの完全な決着という、はっきりした結末がほしいとひかるは考えていた。

 それに……。

 ――コルヴス、貴方はこれで終わりなの?

 幹部を殺されたことで、おそらく同じ年代だろうコルヴスが萎縮して、活動を停止してしまった可能性も充分に考えられる。

 でも、ひかるは彼がこの程度で終わるような人物ではないような気がして、仕方がなかった。

 いたずらや盗難防止のために生徒手帳の機能を持たせた携帯端末を近づけて下駄箱の鍵を解除する。

 上履きを取り出して脱いだ靴を入れようとしたとき、それに気がついた。

 ――久しぶりね。

 わずかな隙間から滑り込ませたのだろう、下駄箱の中に簡素な封筒が入っているのが見えた。

 靴を締まって手に取り、裏側を見てみたが、差出人の名前は書かれていなかった。

 呼び出しと言えば本人でなければ、知り合い経由、さもなくば教師に後で見られる可能性はあるが校内メールというのが定番だった。封書での呼び出しは中学のとき以来。

 差出人が書いてないとなると、自分に自信がないタイプの男の子か、場合によっては文句を言いたい同性である可能性も考えられる。

 内容も読まずに捨ててしまおうと思いつつ、昇降口の隅にあるゴミ箱に向かいながら、ひかるは封筒を表に返した。

「くくっ――」

 思わず噴き出しそうになって、どうにか笑い声を飲み込む。

 トライアルピリオド終了までに何かしてくるだろうとは、期待していた。けれどこんな形でアクションを起こしてくるなんて予想もしていなかった。

 手紙の表には、「シャイナーへ」と手書きの文字で書かれていた。

 正体がばれたのだとは思う。

 それが残り少ないとは言え、この先にどんな悪影響があるのかは、予想もつかない。

 けれどひかるは、手にした手紙の文字を何度も何度も読んで、笑いを噛み殺すのに必死になっていた。


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