第三章

プロローグ

 タッタッタッ――。

 薄暗がりの町中を走る足音が二つ。

 僕は一人で男を追っていた。

 後で襲撃されないように、確実に仕留めておきたい。

 男の足が止まる。

 追い詰めた――袋小路だ。

 逃げ場を無くした男は、壁に背を付け恐怖の眼差しを僕に向ける。

 そんな表情をしたって、同情して見逃すつもりはこれっぽっちも無い。

 僕は、男の頭に照準を合わせた。

 ダン――。

 僕の頭に衝撃が走る。

 僕がトリガーを引く前だった――鉛玉が、僕の頭に命中した。

 カランカラン――。

 その衝撃で、ヘルメットが飛んで行く。

 頭がガンガンする。

 ヘルメットを付けていても、弾丸の威力は完全には軽減できない。

「くそっ」

 僕は、頭を押さえて膝を突く。

 遠距離から狙撃された――。

 発砲音は聞こえなかった――サプか?

 クリアリングが甘かった。

 それに、遮蔽物の無いところを通るなんて。

 ほかの敵の位置を把握していないのに、一人の敵に固執しすぎた。

 ムーブが甘すぎたとしか言いようが無い。

 早く身を隠さないと……。

 パァン――。

 僕の体は横向きに吹っ飛んで、地面に叩きつけられた。

「ビリー!」

 ルカの叫び声が聞こえる。

 頭から血が零れ出る。

 また死ぬんだ……。

 僕の意識は薄れていく。

 でも、次に目を開けた時、無傷の体で生を受ける。

 それの、繰り返し――。

 この世界の命の重みはとても軽い――何度もリスポーンできるゲームのように。

 だから殺すことに何も感じなくなるし、死ぬことに対しても、やがて恐怖を抱かなくなる。

 もっと強くならなきゃ。

 誰よりも強くならなきゃ、この世界を抜け出せない。

 力が欲しい……。

 すべてを打ち負かす程の力が……欲しい。


 そして、僕は目を覚ました。

 何事も無かったかのように。

 毎朝目覚めるのと同じように。

 新たな朝が始まる。

 殺し合いの1日が始まる。

「おはよー」

 横でルカが微笑みかけてくれた。

「よかった……また、一緒だね」

 僕は、胸のドッグタグをルカと交換していた。

 お互いに相手のドッグタグを持っていれば、何度でも同じパーティとしてリスポーンする。

 僕も笑顔でルカの顔を見つめた。

「よし、今度こそ」

「うん」

 僕は、ルカの手を取り立ち上がった。

 ハイジを探し出して、みんなで元の世界に戻るんだ!


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⇒ 次話につづく!

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