エピローグ
僕たちは巨大な建物の内部を進んで行く。
闇は壁のすぐ後ろまで迫ってきていた。
もう、後戻りできる道はない。
「うわぁ」
後方にいた少年の叫び声がする。
彼は三匹の
「助けて……助けて……」
せめて、
僕は拳銃を彼に向けた。
彼は不安そうな表情で、僕を見つめていた。
僕は一切躊躇すること無く引き金を引く。
パァン、パァン、パァン――。
彼の脳天に、僕の放った弾丸が命中した。
彼は頭から血を流し、ぐったりと頭を垂れる。
これで……彼はまたリスポーンする。
「も、もういやーっ」
この光景を見ていた少女は発狂し、扉に向かって駆けだして行った。
「待って、まだクリアリングが完全じゃ無い」
彼女は、扉を潜った。
ドオォォォォン――。
扉で爆発が起きた――。
僕は衝撃で後ろに飛ばされた。
壁一面は血で真っ赤に塗られ、肉の塊が飛んでくる。
そんな……。
扉に罠が仕掛けられていたんだ……。
「ギギッ、ギギッ」
後ろを振り返ると、何体もの
闇はもう真後ろまで迫ってきていた。
「もう行くしかねぇ!」
アサルトライフルを構える少年が叫んだ。
「俺が先に行く、後ろから援護してくれ!」
「でも、まだ敵の位置が掴めていない……」
僕は反論した。
とはいえ、ぐずぐずしていたら、
「行くぞ!」
彼は駆けだして行った。
「くそっ」
僕もすぐあとに続く。
扉の先は広間になっていて、二階まで吹き抜けている。
柱が四本立っているだけで、身を隠せる場所なんてなかった。
こんな見通しの良い場所で交戦になったら――逃げ場はない。
ズドン――。
狙撃銃の音がした。
それと同時に、目の前を走っていた少年は横に飛び跳ねるように倒れた。
ドン――。
地面に倒れたまま微動だにしない。
頭に穴が開いていて、そこから血が地面に流れ落ちていた。
そんな……。
彼は走っていたのに、正確に頭に当てている。
敵は超一流の狙撃の腕を持っている。
どこだ、敵は?
僕は吹き抜けになっている二階を見上げた。
しかし、そこに敵の姿は見えない――。
さらに、その上できらりと何かが光っている。
屋上を見上げると、天窓がありそこに銃口が見えた。
狙撃銃のサイトが、明かりで反射したのだ。
ズドン――。
立ち止まった僕を狙うのは、容易だったのだろう。
銃声と共に僕の頭に衝撃が走った。
撃ち抜かれた――。
終わるときは、なんてあっけないのだろうか?
何日もかけて、みんなで力を合わせてここまで頑張ってきたのに。
あと二チーム倒せれば、みんな元の世界に戻れたのに。
僕は深い眠りに就く。
そして、目を覚ました。
家の中だ……。
埃の臭いがする。
歩き出すと、ギシギシと床が音を立てる。
また、一からやりなおしだ……。
窓から外を見渡した。
ここは、小さな集落のようだ。
辺りに銃声はしない。
僕は家の二階に上がり、ベランダに出た。
風が吹き付け、僕の髪を靡かせる。
だいぶ伸びてきたな……。
床屋にも行ってないからな。
遠くに緑色の山々が見える。
また、新しい世界が始まった。
殺し合いの世界が……。
集落の端に真っ黒な煙が立ち込めていた。
あれは……もしかしたら、ブロックのフォージトレイン?
僕は、警戒しながらその場所に向かった。
そこには、蒸気機関車のトラックが停車していた。
「やっぱりだ……」
ブロックは、開放したコンテナのなかで暇そうに寝そべっていた。
「お? 久しぶり」
僕に気づくと、飛び起きた。
「まだ、この世界にいたのか?」
「うん、なかなかうまくいかなくてね……」
パン――。
ブロックは僕の背中を思い切り叩いた。
「いたっ」
「どうした? 元気だせー」
彼の陽気さに沈んでいた気分も晴れてくる。
「エイトリは?」
「寝てるよー」
助手席を見ると、彼女はぬいぐるみを抱きしめ眠っていた。
「好きな武器もってけよ」
僕は、コンテナに並べられた武器を見て回る。
「
ブロックは嬉しそうに、大きな銃を抱えて持ってきた。
弾帯式の軽機関銃だ。
「火力でるぜ? ダダダダダダダ……」
彼は銃を構え、周りに撃つ素振りを見せる。
「凄そうだけど、僕はこれにするよ……」
僕は拳銃1911を手に取った。
「また拳銃かい? せめてアサルトライフルとかのほうが……」
「いいんだ、僕はこれで……」
彼は、真剣な眼差しを僕に向ける。
「いいかい? 武器は君だけに与えている分けじゃ無いからね? 武器性能の差がそのまま戦力の差になる……」
「十分理解しているよ……これまでの戦いで――。でも、積極的に人殺しをしたいわけじゃないから……」
できれば、自分の手を汚したくない――僕は、そんな甘い気持ちを今も持ち合わせている。
「人を散々殺してきたくせに、いまさら何を言ってるんだろうな、僕は……」
「拳銃だろうが、マシンガンだろうが、人殺しの道具に変わりないよ」
「そうだね……」
僕は拳銃を手にし、換えのマガジンとスモークをポーチに詰め、ブロックに別れを告げた。
この町に仲間はいないのだろうか? ――そう思って一軒一軒家を確認して回った。
タッタッタ――。
足音!?
後方からだ――。
僕は急いで振り返った。
ダダダッ――。
目の前で銃声が鳴り、火花が飛び散った。
僕の胸に幾つもの風穴が開く。
「ぐはっ」
胃の中からのぼってきた血を吐き出した。
僕は、仰向けに倒れ込んだ。
タッタッタ――。
アサルトライフルを構えた男は、振り返ることもせずに走り去って行った。
胸から血がドクドクと流れ出し、止まらない。
倒れている僕の周りは、まるでペットボトルの水をこぼしたように血の水溜まりができていく。
人の体の中には、こんなにも血が入っていたんだ――そんなことを考えた。
体温を奪われ、体が震え出す。
「だから言ったじゃ無いか……」
声が聞こえる。
意識が朦朧として、視界が定まらない。
「もうこの武器は使わないだろう? 回収させて貰うよ」
彼は地面に落ちていた拳銃を拾い上げた。
「また、次の世界で会ったらよろしくなー」
彼は、手を振って去って行った。
あぁ……また死ぬんだ。
今回は早かったな……。
僕は目を閉じた。
また、無傷で生き返るんだ――何事もなかったかのように……。
でも、もしこのまま永遠に目を覚まさなかったら――そんなこと考えると不安が襲ってくる。
だから、目を覚ましたとき、ほっとする。
よかった、再び生を得られたって――。
辺りは、荒廃した遺跡のようだ。
パァン、パァン――。
既に銃声がする。
近くで人の足音も聞こえてくる。
まずい――。
仲間のいる場所も分からないし……。
急いで武器を探さないと――戦場を手ぶらで歩いているようなものだ。
僕は、足音を立てないように、それでも急いで武器を探した。
地面を見て回ったが、中々武器が見つからない。
パァン、パァン――。
銃声が近い!
音のした方を見ると、男が僕に拳銃を向けている。
しまった、気づかれた――。
僕は背を向けて、走り出した。
パァン――。
「うわあっ」
弾丸が足に当たり、僕はその場に倒れ込んだ。
傷はそんなに深くないけど、痛みで立ち上がれない。
見上げると、僕の目の前には拳銃を持った男が立っている。
もうだめだ……逃げられない。。
僕は無力だ――銃が無ければ何もできない。
銃があれば強気に立ち回れるのに――無ければ、ただ逃げ回ることしかできない。
僕は思い上がっていた。
僕の力があれば、簡単に勝ち残って元の世界に戻れるって。
でも、この世界はそんなに甘くはなかった。
最初の戦いで元の世界に戻れたのは、みんなの力があってこそだった。
それなのに――。
また殺されて、生き返って――永遠に殺し合う、この世界。
日本の方がよかった――。
学校が嫌でも、勉強がつまらなくても、こんな世界よりよっぽどいい。
僕は、ゲームで満足しておくべきだったんだ。
「帰りたい……」
僕はそう言葉にした。
そう言えば、神様かなんかが聞き入れてくれると思って。
僕は、頭に拳銃を突きつけられた。
「なんだこいつ、泣いてるぜ?」
男は、僕に向かってそう言った。
「もう、死ぬのは嫌だ……」
パァン――。
銃声と共に、僕の顔に血が吹きかかる。
男は不敵な笑みを浮かべたまま、真横に倒れ込んだ。
ドン――。
倒れた男の後ろには、別の少年が立っていた。
彼もまた、拳銃を手にしている。
リーン――。
互いのドッグタグが共鳴する。
その少年は銃を下ろし、僕の手を掴んだ。
「迎えにきたよ」
彼はにっこりと微笑みながらそう言った。
「なんで? 折角元の世界に戻れたのに……」
僕は彼に向かってそう言った。
「ビリーのいない世界は、寂しいから」
僕は目に付いた涙を拭った。
その少年は、腰を下ろした僕に、顔を近づけてきた。
余りにも近いので、思わず目を閉じた。
彼は僕の首に手を回した。
なぜだろう、心臓の鼓動が速くなる。
「なに、目を瞑ってるの?」
彼の人差し指が、僕の頬に突き刺さる。
「いや……顔を近づけるから……」
「なんかと勘違いした?」
その少年は、可愛らしい笑顔を作った。
「ドッグタグ……貰うね」
彼はそう言って、手にしたドッグタグを自分の首に掛けた。
「それは……僕の……」
「ぼくのドックタグ持っているんでしょ? これでもし死んでもまた、一緒のパーティになれるね」
少年は、拳銃のグリップを僕に向けて差し出した。
「はい、君の銃……」
僕はその場に腰を下ろしたまま、彼の顔を見つめていた。
「どうしたの? 僕を元の世界に連れて行ってくれるんじゃなかったの?」
さっき拭ったのに、両目から涙が流れ出てきた。
「ぼくに言った言葉はウソだったの? 銃があればビリーは最強になれる……そうだよね?」
拭っても拭っても、涙が溢れて止まらない。
「ウソなんかじゃ無い……」
僕は拳銃を受け取った。
「約束する……絶対に……」
少年の手を掴み、僕は立ち上がった。
「ルカ……君を元の世界に連れて帰る……僕の
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⇒ 次話につづく!
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